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デートでしょうか?
「入れ替われたらいいのにね」
「ドラマとか映画みたいに?」
他愛ない会話だったはずだ。
「二人で地面をグルグル回転したら、入れ替わるとか、階段から二人で落ちたらとか、出会い頭にぶつかったらとか?」
「そうそう」
「だったら状況的に痛くないヤツがいいなぁ。とりあえず地面で二人でグルグル回ってみたりしたら入れ替われるかなぁ?」
私にしたら冗談を言ったつもりだったのに・・・・
いつものセリフ合わせ、本番に向けての練習のちょっとした休憩タイム。
「やってみてもいいかな?」
意外なほど真剣な声で我妻君が言うから、笑えなくなってしまった。
お互い、この現状の下、そこそこおいこまれていたのかもしれない。
背が高すぎる私と小柄な我妻君。
「マジで?」
「マジで」
我妻君の眼差しは本気だと告げてくる。ここまでくると、引くに引けなくなっていた。なにせ言い出しっぺは・・・・私だったから。
そして約束してしまった日曜日。
とある公園、学校近くの比較的大きい公園で私たちは待ち合わせをしている。
「やほぉ」
なんかイケメン系が近づいてくると思ったら・・・・
片手を挙げながら近づいてくる我妻君だった。ちょっと能天気とも思える挨拶に思わず苦笑いだ。
我妻君、結構、恰好いい系なんだ・・・・私服のセンスもいいし。
彼が近づいてくる。
でも、うん?あれ?ちょっといつもより視線が近いかな。
いつも通り微妙な距離をとって歩く私たちは相変わらずなんだけど、目線が・・・・
「あの・・・我妻君?」
「あっ、さすがにバレるよね、言わなくていいから。今日はいわゆるシークレットシューズ、履いてみてます」
シークレットシューズって、あのいわゆる・・・・
あまりにもあっけらかんと言うから。どう反応すれば良いいのか、混乱してしまう。
「知り合いとか友達は休みだし、誰にも会わないだろうから、ちょっとだけ見栄をはってみました」
「そうゆう調節できるんだ。いいなぁ・・・」
思わず、呟いてしまった一言に我妻君の声音が少し強張った。
「いいなぁって、どこが?」
「だって私の場合、靴で調整っていっても、ヒール無しを選ぶしかないわけで、他の方法と言えば、そこは膝を曲げるしかないし。でもそんなことしたら、歩き方が変とか言われたし」
「そんなこと、したりするの?」
我妻君の瞳孔が少し大きくなっている。もしかして驚かした?
「兄に隣を歩くなって言われたことがあって。兄の方が背が低かったから」
私の兄は中学で身長の伸びが止まってしまったらしい。一方の私は伸び続けた。今も伸びているらしいし。それは決して私が望んだことじゃないのに。
「不公平だろう」と一方的に兄に避けられた時期があったのだ。
「確かに膝曲げて歩くのは、しんどいね」
「結構ね」
私たちの会話は、顔は笑おうとしているんだけど、ちょっとだけ沈んだ空気感が漂っちゃったんだ。
「アンフェアだ」
「だね」
そんなことを言いながら、歩いていたら、ちょっと遠いはずの公園が見えてきて、ホッとした。
ホント、アンフェア、不公平だ。
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