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裏の顔
その日は、珍しく帰りの会が早く終わって、私は一番乗りに美術室に着いた。一旦荷物を廊下に置いて、職員室から美術室の鍵を取りに行った。少しして、エリナがやってきた。
美術室には私とエリナ二人だけだった。その事件が起こる直前の会話を全くと言っていいほど思い出せない。しかし、決してネガティブな内容ではなかったことだけは確実だ。断言する。
エリナがおもむろに口を開いた。
「ウミってさ……」
何か言いかけたところで、エリナの言葉が途切れた。閉じられた扉が開かれたのだ。入口にウミが立っていた。放心したように立っていたが、次の瞬間、我に返ったようにエリナの元へ歩み寄った。極めて冷静な声でウミは言った。
「何、話してたの?」
「別に。そんな重要な話はしてないよ」
とエリナ。ウミはあからさまに苛立った様子を見せる。
「ウソつき。だって、わたしのこと話してたじゃん」
「だから、本当に意味のあることは話してないって」
ウミは不機嫌そうに眉をひそめて、今度は私の方に来た。エリナに対する態度とは打って変わって、優しい声でウミは言った。
「ねぇ、本当は何、話してたの? 教えてよ」
私は何と答えようか迷って、口ごもった。
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