裏の顔

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 そこに、一年生の部員たちが集団で美術室に入ってきた。ウミは諦めたように、私の元から離れていく。彼女はきっと自分のことを悪く言われていると思ったのだろう。だから、私とエリナに激しく詰め寄ったに違いない。  特にエリナに苛立っていたのは、エリナが抱く不満をウミが察していたからかもしれない。私はそう思った。何はともあれ、その場はひとまず一年生の部員たちによって修羅場を回避することができた。  だけど、本当の修羅場は下校時刻に起こった。その日の部活は顧問の先生の予定で、早めに切り上げられた。私とエリナとウミは一緒に昇降口に向かった。この日、アイは用事があって部活を休んでいた。  昇降口にウミの友達がいた。確か水泳部の子だ。私はその水泳部の子と話したことがなかったが、エリナは交流があるようだった。ウミとエリナ、水泳部の子は二言三言、言葉を交わしていた。  そして、次の瞬間、驚くべきことが起こった。なんとウミが先程の事件のことを水泳部の子に話し出したのだ。すぐそばにエリナがいるのにも関わらず。私は冷や冷やしながら、三人のやり取りを後ろで見ていた。 「ねえ、エリナ、何を話していたの?」  ウミはもう一度、エリナに聞いた。いや、聞いたという表現は適切ではない。水泳部の子──二人の共通の友達の前で白状せざるを得ない状況に追い込んだという方が正しい。  エリナは狼狽えていた。「だから、ウミが気に障るような話はしてないって言ってるじゃん」と語気を強めた。巻き込まれた水泳部の子は、目を白黒させて二人の様子を見ていた。  ウミはエリナに対して冷ややかな視線を注いでいた。それでも、水泳部の子に向き直ると、いつもの笑顔が舞い戻ってくる。  私はこのとき初めてウミに恐怖を覚えた。そして、温厚な彼女の裏の顔を知ってしまったことに、ショックを受けた。  腹の底に沈む黒い感情が露出した姿。私はウミのこんな姿、知りたくなかった。
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