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嫌悪のタネ
あの事件以来、エリナに対するウミの態度は冷たくなった。冷たくなったとはいっても、常時冷たい訳じゃない。
ふとした瞬間──例えば、四人で会話しているとき、冗談交じりに冷たい言葉をさらりと投げかけるといった具合だ。その前後、ウミは笑顔だから私は余計に怖くなった。
仮面を素早く付け替えるように、本心と上辺が見え隠れする。その度に場が凍結し、融解する。そんな感覚を何度も味わった。
当然、私は居心地の悪さを感じていた。けれども、傍観者である私がどうにかできるわけもなく、月日は流れていった。
中三の夏、部活の引退が目前に迫っていた。運動部が最後の試合に向けて熱を注ぐ中、私たちは話し合いに白熱していた。美術部としての最後の大役があった。
それは9月に行われる体育祭の横断幕作成である。全長10メートル、幅2メートルの布地。そこに赤、青、黄、緑各団のモチーフとスローガンを描き入れる。
最後の活動となる三年生が主となって、横断幕のデザインを一から考え、着彩していく。私はこの大役をやり遂げることが一つの目標でもあった。
先輩たちの横断幕はどれも素晴らしい出来だった。だけど、私たちの代は今まで以上に素晴らしいものを作りたい。そんな思いが胸を熱くさせた。
しかしながら、受験という試練が迫っていることも、認めざるを得なかった。
三年生の部員全員がそろう日が少なくなった。部活よりも勉強を優先したい。そんな思いが日増しに強くなっていったことは、言うまでもない。
集まった僅かな部員たちで横断幕のデザインを議論していくものの、なかなか煮え切らない日々が続いていた。
最後の活動だから妥協せずやり遂げたい。だけど、自分の進路も大切だ。部員たちの心の中には、そのような感情が渦巻いでいたことだろう。
刻々とカウントダウンされていく日々に、誰もが焦燥感を募らせていた。混沌とした空気の中で息が詰まり、私たち部員は何度も衝突を繰り返した。
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