軽蔑の眼差し 

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軽蔑の眼差し 

結局、最後に描いたデザインを提出した。思い通りに行かず、半分くらいはやけくそだったのかもしれない。不満足だという思いは希薄だった気がする。  その後、横断幕は無事完成し引退の日を迎えた。夏休みが明けて、体育祭、合唱祭と中学最後の学校行事が終わっていく。秋が深まり、冬の気配が近づくとともに学年の空気感は本格的な受験モードへと突入していった。  あれは三者面談期間のことだったと思う。  昇降口で私はたまたまウミに会った。引退以来、ウミと顔を合わせるのは久々だった。当時、ウミとは別々のクラスで校舎も離れた棟だったので、会う機会が少なかったのだ。  ウミは私と目が合うと、笑顔で私の名前を呼び近づいてきた。 「今日、誰かと一緒に帰る約束とかしてる?」 「ううん。してないよ」 「じゃあ、一緒に帰らない? わたし、一人だからさ」 「いいよ」  特に断る理由もなかったので、私はウミと一緒に帰ることにした。稲が刈り取られて荒涼となった田んぼのわき道を並んで歩く。時折吹いてくる風が冷たかった。 「今日は一段と寒いね」 「そうだね」 「そういえば、第一志望校どこにしたの?」 「私は一応、S高だよ。ウミは?」 「わたしはK高」  私は少し驚いた。夏までのウミの第一志望校は私が志望していたS高だった。そして、私は夏までK高を志望していた。つまりは、私とウミの志望校が逆になったということだ。  K高はS高よりも幾分、レベルの高い高校である。夏の間に学力が上がって、進路を変更したのだろうか。私は気になって、ウミに聞いてみることにした。 「どうしてK高に行きたいの?」  ウミは肩まで伸びた髪を指先でいじりながら言った。 「S高よりもK高の方が仲の良い子たちが多いらしくて。やっぱ、高校でも友人関係は大事じゃん? だから、K高に変えたんだ」
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