第1話 黒川舞

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部活帰り、いつもと同じ電車の3両目。舞はフェンシングバッグも肩に担いでいる潤と一緒に乗り込む。 「黒川さん、お疲れ」 「お疲れ」 落ちこんでる時に会いたくなかったな。 今日は1本電車をずらして帰ればよかった。 「インターハイ出場おめでとう」 笑顔を顔に貼り付けて舞は言った。 「ありがとう」 「面と向かって言えてなかったなーと思って。ホラ、最近白石くんのとこ、毎日のように人が来てるから」 潤がははっ、と小さな声で笑う。 「ああ、確かに。いつまで続くかわからないけど、フェンシングに興味を持ってもらえるのは嬉しいよ」 「練習量増やしてたりするの?」 「もちろん。平日の部活に加えて日曜はクラブにも行って、実戦形式メインに練習してる」 インターハイに向けてとことん練習出来る彼がうらやましい。 「そっかぁ、しばらく大変だね」 「うん、でも後悔しないように出来る準備は全部やっておきたいんだ」 「目標は?」 「ベスト8」 そう迷いなく言った潤の姿が、今の舞の目には眩く映る。 (器ちっちゃいな、私) 上手いプレイヤー、いいキャプテンになりたいのになれなくて。今も心の底では白石くんの事をうらやみながら、口だけでおめでとうって言って。 「黒川さん、何か悩んでる?」 (やばっ、顔に出てた!?) 努めて明るく、なんてことなさそうな口調で舞は言った。 「実はちょっと。……なんでバレちゃったかな」 「なんとなく」 まっすぐな潤の視線。 自分の嫌なところを全部見すかされてしまうような気がして、逃げるように舞は彼より先に駅のホームに降りた。
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