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部活帰り、いつもと同じ電車の3両目。舞はフェンシングバッグも肩に担いでいる潤と一緒に乗り込む。
「黒川さん、お疲れ」
「お疲れ」
落ちこんでる時に会いたくなかったな。
今日は1本電車をずらして帰ればよかった。
「インターハイ出場おめでとう」
笑顔を顔に貼り付けて舞は言った。
「ありがとう」
「面と向かって言えてなかったなーと思って。ホラ、最近白石くんのとこ、毎日のように人が来てるから」
潤がははっ、と小さな声で笑う。
「ああ、確かに。いつまで続くかわからないけど、フェンシングに興味を持ってもらえるのは嬉しいよ」
「練習量増やしてたりするの?」
「もちろん。平日の部活に加えて日曜はクラブにも行って、実戦形式メインに練習してる」
インターハイに向けてとことん練習出来る彼がうらやましい。
「そっかぁ、しばらく大変だね」
「うん、でも後悔しないように出来る準備は全部やっておきたいんだ」
「目標は?」
「ベスト8」
そう迷いなく言った潤の姿が、今の舞の目には眩く映る。
(器ちっちゃいな、私)
上手いプレイヤー、いいキャプテンになりたいのになれなくて。今も心の底では白石くんの事をうらやみながら、口だけでおめでとうって言って。
「黒川さん、何か悩んでる?」
(やばっ、顔に出てた!?)
努めて明るく、なんてことなさそうな口調で舞は言った。
「実はちょっと。……なんでバレちゃったかな」
「なんとなく」
まっすぐな潤の視線。
自分の嫌なところを全部見すかされてしまうような気がして、逃げるように舞は彼より先に駅のホームに降りた。
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