第1話 黒川舞

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期末テストも終わり夏休みが近づいてきた頃、校内ではちょっとした白石ブームが起きていた。 先日の朝礼で、今年のインターハイ出場者が紹介されたからだ。フェンシングという珍しい競技、しかも2年生で出場する彼が注目を浴びるのは自然な流れと言えるだろう。 「インターハイ出場なんてすごいじゃん」 「ところで、フェンシングってどんな競技なんだっけ?」 興味本位で教室を訪れ、話しかけてくる生徒が後を絶たなかったが、潤は嫌な顔ひとつせず、ひとりひとり丁寧に応対していた。 「白石、ノート貸してくれ」 「潤、数学教えてくれ」 1年生の時からずっと学年上位トップ10の成績をキープしている彼を頼ってきた男子たちに、昼休みをつぶして勉強を教えてあげていた期末テスト前と同じように。 (まあ、それは別にいいんだけど) 白石くん(もしくは白石先輩)ってよく見るとイケメンだね、だの、成績優秀でフェンシングも強いなんて格好いいよね、だの、全校の女子たちが急にざわつきだしたことに、舞はもやもやしていた。 潤と話せるようになったばかりの自分にとやかく言えることじゃないとわかってはいるけれど、面白くないというかなんというか。 (もやもやすること続きだな) インターハイの県予選、最後の1点は自分のブロックを弾き飛ばされて負けた。 その直後1年生が3人も退部した。 部長として指名された時は、自分ならきっとチームを上手く率いていけると思っていたのに、現実はこのていたらく。 プレイヤーとしても部長としても、自信は粉々に打ち砕かれてしまった。
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