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わざと早足で階段を登っているのに、フェンシングバッグを担いで追いついてくる潤の脚力が、今日は苛立たしい。
「俺じゃアドバイスは出来ないけど、話くらいは聞ける。もし良ければ……」
嫌だ。
カッコ悪い自分を見られて、同情されるなんてまっぴらごめんだ。
だいいち個人競技をやっている彼にはわからない。
部内の人間関係に悩まされて、それでも誰かとチームを組まなきゃいけない自分の気持ちなんて、絶対わからない。
「白石くんには関係ないんだから、放っといてよ!!」
声に出した途端、スッキリするどころか激しい後悔に襲われた。
ひどい事を言ってしまった。
白石くんがインターハイに出られるのは、一生懸命努力したからだとわかっていたはずなのに。
改札を出てから、舞は立ち止まり頭を下げる。
「……ごめん、今のやつあたり」
おそるおそる顔を上げると、潤は静かに微笑んでいるだけだった。
「いや、こっちこそ。余計なお世話だったよな」
怒るどころか気をつかわれて、ますます罪悪感がふくれあがる。
舞は懸命に笑顔を作って言った。
「本当にごめん。……インターハイ頑張ってね。それじゃ」
いたたまれなさのあまり潤に背を向け、東口方向に向かって駆け出す。
(……最低だ、私)
涙が出そうになるのを必死にこらえて、舞は息が切れるまで走り続けた。
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