第1話 黒川舞

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わざと早足で階段を登っているのに、フェンシングバッグを担いで追いついてくる潤の脚力が、今日は苛立たしい。 「俺じゃアドバイスは出来ないけど、話くらいは聞ける。もし良ければ……」 嫌だ。 カッコ悪い自分を見られて、同情されるなんてまっぴらごめんだ。 だいいち個人競技をやっている彼にはわからない。 部内の人間関係に悩まされて、それでも誰かとチームを組まなきゃいけない自分の気持ちなんて、絶対わからない。 「白石くんには関係ないんだから、放っといてよ!!」 声に出した途端、スッキリするどころか激しい後悔に襲われた。 ひどい事を言ってしまった。 白石くんがインターハイに出られるのは、一生懸命努力したからだとわかっていたはずなのに。 改札を出てから、舞は立ち止まり頭を下げる。 「……ごめん、今のやつあたり」 おそるおそる顔を上げると、潤は静かに微笑んでいるだけだった。 「いや、こっちこそ。余計なお世話だったよな」 怒るどころか気をつかわれて、ますます罪悪感がふくれあがる。 舞は懸命に笑顔を作って言った。 「本当にごめん。……インターハイ頑張ってね。それじゃ」 いたたまれなさのあまり潤に背を向け、東口方向に向かって駆け出す。 (……最低だ、私) 涙が出そうになるのを必死にこらえて、舞は息が切れるまで走り続けた。
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