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「黒川さん、お疲れ!」
部活終了後、ひとり職員室に部室の鍵を戻しに行った舞は、同じように部室の鍵を戻しに来た青井翔に声をかけられた。
「青井くん、お疲れ」
昇降口に向かって廊下を歩きながら、2人は言葉を交わす。
「部室で聞いたよ。鈴ちゃんと付き合い始めたって。……おめでと」
自分でもびっくりするぐらい素直に言えたその言葉に、翔は照れくさそうな笑みを浮かべる。
「おう、ありがと」
昇降口の前で立つ鈴の姿を見つけた舞は、翔の背中を軽く押す。
「ほら、行った行った!」
仲良く並んで帰っていく2人の背中を見送っても、もう胸はそれほど痛まなかった。
夜空に浮かぶ月を見上げて舞は思う。
大丈夫、今なら“憧れだった”で済ませられる。
「黒川さん」
「白石くん、お疲れ」
帰りの電車が駅に到着し、2人は並んで3両目に乗り込む。
今日は沿線で車両故障が起きて振替輸送をしているせいか、車内は仕事帰りとおぼしきスーツ姿の人たちでぎゅうぎゅう詰めだ。
スクールバッグを抱えた舞を庇うようにして、リュックを前に背負った潤がドアに手をついてすき間を作ってくれる。
「きつくない?」
「平気。ありがとう」
普段ではありえないくらい2人の距離は近い。
(……落ち着け。今はバレーに集中すべき時。ときめいてる場合じゃないんだから)
何度も自分にそう言い聞かせ、舞は必死に平常心を保ち続けたのだった。
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