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「黒川さん」
「白石くん」
今日はいつも通りの混み具合。
帰りの電車でも舞は潤とちょっとだけ離れたつり革を選んだ。
(平常心!)
間違っても制服の下に隠れてる筋肉のことなんて意識しちゃいけないんだからね絶対。
そう心の中で唱えてから、舞は口を開く。
「そういえばさ、白石くんがフェンシングを始めたきっかけってなに?」
「ああ、マイナースポーツなのになんで始めたんだろう、って思った?」
「ごめん、実は思った」
変に意識しないようにあえて他愛ない話をしておきたかったのは確かだけれど、フェンシングが決して身近にある競技ではないだけに気になっていたのも本当だ。
正直、フェンシングにフルーレ、エペ、サーブルの3種目があることさえ、潤に教えてもらわなければずっと知らずにいたと思う。
「きっかけはオリンピックだよ。男子エペ団体で金メダルを獲った時の試合をテレビで観て、あまりの格好よさに興奮してさ。“俺もやってみたい”って親に言ったら、今お世話になってるフェンシングクラブの体験レッスンを見つけてきてくれたんだ」
「体験レッスンも楽しかったんだ?」
潤はうん、と頷いて続けた。
「始めてみたら間合いとか駆け引きとか頭も使うスポーツなとこにはまって。……で、今に至る」
きらきらと輝くような横顔から伝わってくる。
「白石くん、ほんと好きなんだね。フェンシング」
「黒川さんは?バレーボールのどんなとこが好き?」
「誰かと一緒にボールを繋ぐとこ。あとはね……」
不思議だ。どんなに遠ざけようとしても、白石くんとの距離がいつの間にかまた近づいてる。
こんな人がいるんだな。
夢中になって話しながら舞はそう思った。
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