その息を聞かせて

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

その息を聞かせて

 スー……スー……。心地よく口元に響く君の吐息が、俺を安心させる。  大きく息を吸いながら君のその匂いを大きく吸い込み、同時にその身体をきつく抱きしめる。……離れてなんて行かないってことは、分かってるんだよ。それでもこうして、抱き締めておきたいんだ。  時々不安になるんだ……いつも笑っている君が、俺の知らない所で涙を流しているんじゃないかって。……その涙に、俺は気付けていないんじゃないかって。その笑顔の後ろ側が、あるんじゃないかって。  この服を脱ぎ捨てて、俺の体温をもっと深く感じさせたくて、こんな寒い季節の中でも俺は君の着ているセーターを脱がすんだ。 「恥ずかしい……」そう言って恥じらう君は天使のようにこの目に映るよ。無理はしなくて良い……この俺を信じきれないのなら、その時まで待つから。  真っ直ぐにこの目を見つめるその瞳はきっと、俺を疑ってはいないんだろうね。正直に話すと、実は俺……100%君を信頼している訳ではないんだ。その純粋な瞳を見つめていると、何だかそんな自分が恥ずかしく思えるよ。  君を抱く度に、昨日よりももう少しだけ深く君のことを知りたくなるのは……出来るだけ気付かれないようにしているんだ。だけど、俺は確実に君にハマってしまっている。そんな事にも君は気付いているのかもね。  可愛い悪魔は(あなど)れない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!