秋によせて

3/6
前へ
/14ページ
次へ
ビル街からは自然はのぞめない。 街路樹の色付きが秋の訪れを物語る。 物悲しさにうちひしがれる男を尻目に、豊穣の恵みに歓喜する。 今日はモンブランね。 リンゴのパイもスイートポテトも、ワインの美味しいお店が良いわ。 そつのないスマートなイケメンにしなだれ掛かる女は色付く街の中で色艶を振り撒く。 銀杏が降り注ぐ。 まるで黄色い花吹雪。 捨てたはずのあの山々、野山に実る果実。 吹く風は柔らかく、切りつけはしない、大きく手を広げている。 黄色く色付いて、赤く燃えるように秋を慈しむ。 お願い、気づいてよ。 帰ろうかな……… 見放されていたスーツ、いっそ捨てよう。 カサッ。 ポケットに手をいれた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加