108人が本棚に入れています
本棚に追加
乱暴にドアが開け放たれた、瞬間に。
ぞわっ、と喜一を悪寒が包んだ。
両親も、喜一も。
時が止まったように体が動かなくなった。
のそり、と入ってきたのは大柄な、ぶどう色のペイズリー柄のチョッキを着た男。次に、灰色と銀をまぶしたようなスーツの男。
先に口を開いたのはチョッキを着た男だった。厚めの唇が、にや、と横に広がった。
「おいおい……同士の一条君よ。どうやら我々はすんでの所だったようだぞ」
灰色と銀のスーツの、一条と呼ばれた男は頷きながら、すん……と鼻を鳴らした。
「そのようだな。ふむ……これは驚いた。まさか本当に【ヤマユリ】の花人が飼われずにいるとは……すばらしいな、三ノ宮君。さて……君はどちらにするかね?」
「うーむ、悩むところではある。前の【キキョウ】の時は男だった。その前の【ツバキ】は女……。では、俺は女にするか」
「そうか、奇遇だな。私はしばらく女の個体が続いたので、男を飼いたいと思っていたのだ」
「それはそれは……良き事だ。俺とて、喧嘩はしたくはない。なにせ、負けると決まっているからな」
「ふふふ……そうとも。私は君より【血の位】が高い。【決闘】をしたとしても……欲しい物を手に入れるのはこの私なのだ」
「まさしく。」
その男達の会話は自分本位で、自分勝手だった。目の前で人間が人間の首を絞めているというのに。
そんなことは意にも介さず、どちらがどの花人を飼うか、と相談し合っているのだ。ひどい、と思った瞬間に外で銃声が響いた。
なんだ、と思っている内に足音がやってきて、玄関ごしに、声が聞こえた。
「一条様!三ノ宮様!反逆者を【処分】致しました!死体はどのようにしておきますか!」
「ふむ、衣服を剥いで、吊るしておけ。龍人を殺そうと企んでいた組織の人間だったと……そう、流布するのも忘れぬように。ふん、耕人の雌ごときが私のスーツに触れた。汚れたあの手で、触ったのだぞ?その行為は死に値する。そうは思わんか、同士」
「おう、まさしく。君の衣服一揃え、耕人の人生が一回は働かずにゆうに暮らせる値段の代物だ。そんなものに触れたので……奴は幸せ者だろうよ。死んで本望だ」
「ふふふ……上手いことを言ってくれる」
「ははは……世辞がうまい」
最初のコメントを投稿しよう!