青年編

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苦虫を噛み潰したような顔で、喜一は自分の部屋に向かった。今日だけは一緒に寝てやるが、明日からは居間で寝てくれ。そう言おうと思って自室の襖を開けると、そこに、花畑が見えた。 人間の肌。 その生きた皮の表面には色とりどりの花が描かれていた。 全身に、艶やかな花・花・花。 百合。薔薇。紫陽花。鈴蘭。桔梗。椿。向日葵。その他、百花繚乱である。 その花畑は人型で、首から上、手首、足首以外は全てが花の刺青で満たされていた。 全裸で、金のネックレスと、時計だけをした花畑、もとい聡美が煎餅布団の上に仁王立ちをして、「どうや」と笑う。 「俺が十四でヤクザになった時にお父ちゃんに墨、いれてもろた。綺麗やろ」 「……うん、綺麗や」 「お前のは龍やが……花人の龍やな。俺のは花や。花人の花や。だから、一緒やな」 ふふふ……と笑いながら聡美は自分の性器を握りしめた。太い。 見せつけるように聡美が男性器を擦れば、美しい顔とは真逆のグロテスクな性器はむくむく、と勃ちあがり、亀頭が膨らみ、まるで茸のかさが開くような形になった。太い、()。そこから開く、かさ。 「なあ、キーチ。お前は……なんで俺のあだ名が毒キノコか……聞いたやろう?それはなあ……これやで……。俺のチンポはな……、行きはよいよい、帰りは怖いんじゃ……。中に押し込むと、この亀頭が入り口に突っかかり寄って、なかなかに抜けへん仕組みになってる……そんでどんなに乱暴に抜き差ししても抜けへんからな……これで嬲られた女も男もイキ狂う。そんでな……毒キノコの恐ろしい所はそこじゃないんやで……。なんやと思う?キーチ」 「わ、わからん」 「ほうか……ほな教えたるわい。これで突かれたらな……また欲しくなるねん。突かれる度にこれでしか満足できへんなる……ふふ……ふ。可哀そうにな……。刑務所で俺をアンコにしよう、思って襲った輩をこれで何度も犯したったわい。ほうしたら最後の方は涎を垂らしながら泣いて「ちんぽ、ください」ってねだるんや。ほやからの……そういう輩は他の男の便器にあてがってやるのよ……」 「悪い男やな」 「ほうや。俺は悪い男や……。いや、そうでもあるが、そうではない。これはな……花人の性質や。色事に長ける。そういうこっちゃ。お前もそうやろ、喜一」 「俺は、別に」 「嘘ついたら、あかんで。他人に嘘ついてもええけど、自分に嘘、ついたらあかん」 (またた)く星を、瞳に閉じ込めた男が喜一に近づいてくる、その度に、濃厚な花の香りが鼻腔をくすぐる。 その匂いは。 懐かしい匂いがした。 「お父ちゃん……、お母ちゃん……」 喜一は思わず呟いた。
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