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喜一は無遠慮に聡美の中に指を一本、挿入してみる。
そうすると、自分を抱きしめている男がアホ……と笑いながら身を捩った。
「いけず……やの、キーチは。男かて、いや、男こそ、繊細な生き物なんや……もっと優しく……いじってくれな、嫌やでえ……。ほれ……手本を見せたろう」
そう言って聡美は喜一の穴に入れた指を少し震わせながらぐるりと入り口だけでくちゅくちゅぅ……とわざと音を立てながら喜一の後ろの穴を大きく、緩くしていくのだ。
痛めつけることが目的ではない、この中に大事な物を預ける。
その為の器を作っている最中だというように、優しく探りながら広げる。その中途半端に焦らされる快感に、喜一は足が震えてしまう。男なのに、と思い込もうとしても、無駄だった。
体が求めていた。
もっと、奥へ挿れてほしい。
もっと、激しく突き入れて欲しい。
もっと、太い物で掻きまわしてほしい。
自分の穴はもっと、大きい物を受け入れられる才能があるのだ。そんなに優しい愛撫などいらない。先刻自慢していたお前の、毒キノコ。あれを、喰らわせてほしい。そんな言葉が、喜一の喉元まで出かかって、男のプライドがそれを押しとどめた。喉が自然に鳴ってしまう。自分の全神経が発情期以外、ここは排便するだけの器官なのだと、言い聞かせていた小さな穴に集中してしまっている。
(嫌や……、認めたくない……俺はここで感じるような男ではない……)
「認めたくないか、キーチ」
眉間に皺を寄せて耐えようとしていた喜一の耳元で、聡美の低く甘い声が囁いた。
「なにが、そんなに怖いんや」
「うるさいわ、ボケ」
「自分の親みたいに、なりたくないんか」
喜一の脳裏に、項を噛まれて呆けたように龍人にすがって「孕ましてくれ」とすがっていた両親の姿が浮かんで、思わず怒鳴った。
「お前になにが解るんじゃ!」
「解るに決まっとるやろ。俺達は同族やからなあ……。ええか、喜一。俺はな……この世界に神様はおらんと思っとる。神様というのは、人間が作ったもんでな……極楽も地獄もありはせえへん。死んだら終わりの人生や。なあ……喜一。死ぬのは怖いで?そんでな……生きてるうちから死ぬ事はないのじゃ。生きてるうちに、地獄へも行き。極楽へも行く。神様はいいひんけど、この世はあるのじゃ。この世で、楽しまへんかったら、お前はどこで楽しむんや?」
「なにが言いたいんや」
「うん……。キーチ。俺はな……お前と同じ【外道】じゃ。それで、親も、龍人に取られた。こんなに悲しい事はないとその時は思ったし、もう楽しい事なんて何もないと思いこんだ。そうやけど、生きてたらな……もっと悲しい事もあるし、もっと楽しい事もある。それでな……それはなんでやと言うたら……単純な話、気分の問題や。世界はのう。俺らの悲しみも楽しみも。関係ないのやろうな。自分の体の中で真っ黒い、わだかまり、作って、自分の事可哀そうな奴やって思ってたら損や。俺はそういう風に思うようになった。生きてるうちに、花開きたい。もっと、もっと楽しみたいし、暴れたいし、気持ちよくなりたい。俺はお前と同じ身の上やがな。楽しむでえ!花人としても、もっと、愉快にヤりまくるし、女とも男とも楽しく遊ぶ!なあ、キーチ!お前も、その方がええやろ?」
「か、勝手な事抜かすな!」
「なんで?なんでそんな怖い顔で、俺に噛みつくんや……?俺は怖くないど……?」
聡美は喜一の威嚇もちっとも怖がってはくれなかった。そればかりか噛みつきそうになる喜一の肩を抱き、さらに、もう一本、喜一の後孔に差し込む。そうした瞬間に、喜一の体は嫌でも、喜びを感じてしまうのだ。ここに、男根を、突き込んでほしい。期待で、更に愛液がトロトロと股から流れ落ち、喜一の男性器は固く反り上がっていた。
(畜生……俺は感じたくないのに……、頭の中まで痺れてしまう……くやしい……くやしい……)
喜一の瞳には知らず知らずのうちに、涙が浮かんでいた。それがまた、くやしい。と思った時に頬に一筋、涙がこぼれ落ちていく。
それを見て、わはは、と豪快に、だが優しく笑いながら聡美は喜一の頬を掌でぬぐった。
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