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一か月に三日。
野崎と市川は寝室の襖を締め切って、籠る。飯も食わずにただ、ただ、花の香りのする汗ばんだ肌を相手に擦りつけ、笑い合いながら、まぐわう。
花と、龍が、混じる。
熱い吐息も、口腔に差し入れる舌も、股から濡れる愛液も、全てが百合の匂い、濃厚な、性の香りがした。
最初のうち、野崎が市川を抱くことが多かったのだが、段々成長してきた市川が、野崎を組み敷く楽しみを覚えると、野崎も笑ってそれを許した。なにせまだ十五、六。性欲の滾りが一番激しい頃である。抱かれるよりも、相手を抱き尽くしたい。そんな欲を野崎にぶつけるようになった。野崎も最初は年上の余裕を持って性の教育を市川に施したが……市川の性技が卓越し、野崎自身がそれに翻弄されて身悶え、もう許してくれ、と泣いて乞うまでに成長すると、「お前は最初、エッチなんか嫌いや、言うてたのに……とんだむっつりスケベボウズになったもんや」とぼやくようになった。それを市川は笑い飛ばしてやる。
「俺らは花人やからの……貪欲やないとあかん」
「そうやの……貪欲にならんとな」
花、二輪。身を寄せ合って笑う。
二人は野崎のおっさんの家から離れ、大阪に行った。野崎が所属している組が大阪にあったからだ。
その後の二年間。それは人間界から地獄に赴く旅だった。業の深い畜生、餓鬼の世界へ二人は飛び込んだ。金が欲しかった。今も非道な目にあっている花人や【外道】を救う為になにかしたかった。なにか、理由はあった。かといって人を傷つけてもいい理由にはならなかった、が、人を傷つけてはならない理由にもならなかった。人を殺す。以外の事はなんでもした。なんでもやった。野崎のおっさんは大阪に旅立つ二人に、二振りの白木の鞘の長ドスを押し付けた。おっさんは二人に理由は聞かなかった。なぜ、大阪に行くのか。思いつめた顔の二人に、問いただすことはしなかった。ただ、凶器を渡した。何も言わないこともまた、男同士、解り合っている証と言ってもよかった。
「また帰ってくるんやろ」
おっさんが二人に聞く。二人はおっさんに頷く。「うん」とおっさんが言った。別れの挨拶はそれだけだった。
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