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「山、買えるで」
その日、金庫に放り込んだ札束を数えながら、野崎が言った。
「ほんまか、サト兄」
普段、滅多に感情をあらわにしない市川が読んでいた娯楽雑誌を放り投げて駆け寄る。野崎達の事務所にいるほとんどの人間が花人と【外道】であるので、周りの人間もざわ、とどよめいた。
「おお……。ほんまじゃあ……お山、買える、買えるぞ!よっしゃ……すぐ電話して、不動産屋行くで!」
「ははは……ほんまか……さすがや……夢物語やと思っていたが……ほんまにサト兄……やりよった……!」
「あほ、俺だけやない。みんなで、山買うんじゃ!ええか、名義はな……俺と、お前と、それから各店の店長、それと、ここにおる全員や」
「なんやて」
「もし、一人だけの名義やったら、山なんかすぐ取られるかもしれん。そやが、合同の名義やったら、一人あかんなっても、複数おる。もしなんぞあっても複数全員のハンコがなかったらなにも出来へんようにしたほうがええんじゃ。あのお山……もう、手放さへんぞ。みんなで、山を守るんや。花人だけの、山や。使いたかったら使えばええ。住みたかったら住んだらええ。とにかく、俺らだけの居場所なんや……そうやろ、キーチ」
「そうや」
市川は即答した。久しく胸が高鳴ると言う経験がなかったが、今、まさに心音がうるさい程に鳴っているのが解った。
(お父ちゃん、お母ちゃん……。とうとうや……とうとう……山に帰れるんやで……。俺が、皆を連れて行ってやる……)
心の中で叫びながら、市川はぎゅっ、と自分の胸を握った。そこには二頭の対の龍が棲んでいるのだ。自分の胸が高鳴るたび、まるで自分の両親が喜んでいるように感じて、嬉しくなった。
「山、行けるんやな」
「おう……山、行くで」
二人はその日、不動産屋に行き、書類を整える、山を買えるまでには少しかかる、と言われていても、頷きながら上の空だった。うわついたまま、家に帰ると、野崎が発した何百回目かの「山、買えるぞ」の呟きを、市川は唇で、封じた。そのまま唾液を交換し合い、玄関で服を脱ぐ。興奮しているのだ、百合の匂いが漏れている。この頃になると、海外からの言葉で龍人はアルファ、耕人はベータ、花人はオメガ、とも言う様になったが、市川たちは断じてその言葉を使おうとしなかったし、花人達の発する匂いを止める抑制剤や、発情期の時に発情を止める薬も売り出されてきたが、古い花人達は抵抗があった。なぜ、花人だけが抑制せねばならないのか。自然に逆らい、薬を飲んで抑えることの方が不自然ではないか。
市川たちもその意見に賛成だった。興奮したら、まぐわえばいいのだ。喜びも、悲しみも、分かち合いながらまぐわえばいい。
匂いは誇るべきものであって、卑下する物ではない。花の香りの何が悪いと言うのか。
そこに不自然なものなど何もない。
「キーチ、ここでは体、おかしくなる……布団でやろうや……」
「あかん、そこまで行かれへん……。今、動いたら爆発しそうや」
「爆発……ははは……チンポコ破裂するんか」
「そうや……あんたのケツマンコに入れてくれ……ザーメン、中に注がしてくれ」
「いやらしいのう、キーチ」
「おう、いやらしい事、あんたも好きやろ」
舌を舐め合い、噛み合いながら、玄関先で野崎の体をドアに押し付け、相手のベルトを解こうとすると、甘えたように野崎が目線を寝室にやった。だが市川は今日は何故か、ここでしたかった。もう、我慢できなかった。嬉しさを、まぐわいで表現したかった。それが解っているのか、少し抵抗しただけで、野崎も「しゃーない子やの」と言って自らベルトを外し、ズボンを脱ぎ、後ろを向いて、ドアに手をつく。
そして尻を突き出して、いやらしい顔、舌なめずりをして市川を誘った。
「キーチ……犯してくれるか……」
「おう……犯す……あんたのケツマンコ、犯す……」
「ほうか……、はようしてくれ……今日の俺はなんか変や……お山の中に行けると思うだけで……見てくれ……尻の穴がぱくぱく……して愛液が垂れるんじゃ……これはな……嬉し泣きやで……はよ……お山の中にいって、みんなでまぐわいたい……交わりたい……ゆうてな……はよ、ちんぽ、入れてくれ……」
「挿れる……!」
そう叫んで市川はズボンを早急に脱ぐと、赤黒く腫れあがった性器を掴み、片手で野崎の腰を、もう一つの手で性器を握りながら野崎の穴の中にずぼぼ……っ、と一気に陰茎を挿しこんだ。
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