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喜一は夢で自分の家にいる。茶の間で正座していた。
目の前で、固く閉じられた寝室の襖があいている。
薄紫、蓮華色の光が煌々と燃えていた。
百合の香りが喜一を押しつぶすように濃厚に薫る。
その中で、一糸まとわぬ両親たちが睦み合っていた。片方は胸に膨らみがある。片方は股の合間に膨らみがある。その他はとくに違いがない。かぐわしい香りに、なにやら綺麗な音楽。襖の向こう側はまるで極楽浄土の有様だった。花はない。花などいらない。花は、二つ、もうあるのだ。花人達はくすくす……と笑い合ってお互いの胸を触り、陰部をこすりつけ、まるで転げまわるようにお互いを押し倒したり、押し倒されたりして……濡れた鴉の羽のような髪が絡まって、どちらのものか解らなくなって……そしてその乱れた髪の合間から、両親たちは瓜二つの顔で、喜一を見つめ、誘うのだ。
【キーチ、早う、おいで】
その姿はまるで、天女達のようだった。
そこで、喜一は目が覚める。
部屋はしん、としている。けれども濃厚な百合の匂いは消えない。
小学五年の時だ。
喜一は両親達の発情期の時に、同じような夢を見て目が覚めた。しかし、なにか違和感がある。ふと、布団をめくってみると。
股が濡れていた。
これは何事か。
三日の発情期が終わって開いた襖から出てきた両親に尋ねてみると、二人は驚いた顔をしたが、「ああ、喜一もそんな年になったんやねえ」と二人でまたも、くすくす……と笑った。
喜一の股から出たのは愛液だと言う。尻の穴から漏れ出たので下痢かと思ったが、白っぽいものが混じっていて、匂いもそこまでなかった。いぶかしげに思う喜一に両親は言った。
「それは花人の男やったら当たり前のことなんよ。花人の男衆は特別なんや」
「特別?」
母が乱れた髪を梳きながら喜一に告げる。喜一は父に体を見てやろうと言われて衣服を全て脱いだ。二人の前で自分だけが全裸になる。それがなんだか急に恥ずかしいことのように思えてきて、性器を手で隠そうとしたが、優しい手つきで父が制した。
「なんで隠すんや?こんなに可愛いオチンチンやのに」
「そやけど、恥ずかしい」
「恥ずかしいことなんか、あらへん。なあ、つるえ」
「そうやねえ。山の中やったら、あたしらずっと、裸やった」
そうやって両親は今着たばかりの服をどちらが言うでもなく、するりと脱いだ。二人の白くてきめの細かやかな肌はいつ見ても新鮮に思えて、目に眩しかった。男に散々撫でまわされているはずなのに、処女性を秘めている肌だ。誰の手垢もついていませんよ、とでも言いたげな肌。両親達は今の今まで、お互いを抱き合い、性器を擦りつけていた。そうと解っていても、彼らの艶めかしくむっちりとした肌は美しいと喜一は思った。対して自分の肌はどうだ。黄色人種そのものだ。健康的な耕人の子供そっくりだ。どう見ても、花人の男ではなかった。そう思うと、父と母がよく口にする【山の中】では自分はきっと異端児なのだ。今だってそうだが、彼らの村の中では、本当に仲間外れにされてしまう。そんなことを考えると喜一はまた悲しくなってしまう。
けれども両親は嬉しそうに全裸で喜一に近づき、こう言った。
「もしもキーチが山の中におったら、今頃ハーレムが出来とるね」
「そうやな。こんなに男前やったら、年頃の娘さんがいっぱい来よるな」
「……俺は男前やないもん」
「何を言うとるの。男前やよ。キーチは男前や。お父ちゃんは前から言ってたやろう?僕もキーチみたいな顔がよかったなあって。花人の娘はな……やっぱり男らしいのが好きなんよ。血ィに抗えんのかなあ。少しでも男らしい男を捕まえようと必死やった。お母ちゃんもすごかったんやで」
「それはそうや、お父ちゃんは山の中で一番男らしかったからなあ」
そう言って瓜二つの顔で、両親が笑い合う。
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