山本二郎

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山本二郎

──商店街なんか来るんじゃなかった! 夏美(なつみ)は肩を怒らせ、大股でグングン歩く。 ムフーッ、ムフーッと鼻息荒く商店街の端まで来ると、グリンと振り返り歯をむき出した。 「ふざけんなっ、ダミアン!いーっだ!!」 触らぬ神に祟りなし、通行人は見て見ぬ振りだ。 鬼気迫る鬼の形相……つまり鬼化している中年女性を慰める程、お人好しな街でもない。 普段は穏やかであたたかい商店街だとしても。 稲尾商店街は、駅前の古い商店街だ。 今も、昔むかしの名残が拭いきれていない。 地域密着を合言葉に、大手スーパーやコンビニに喧嘩を売る勢いで元気に営業中。 ──お客さんを喜ばしてなんぼ! ──しゃべくり出来へん奴は商売人ちゃう! ──関西のあきんど、舐めんな! ここにはまだ、古き良き時代の商いが残っていた。 だが、最近のお客さんに通用するのか? 買い物はちゃっちゃとすませ、店主と無駄話するのはおばあちゃんくらい。 大抵のお客さんは、無駄話している暇などない。 むしろ、ウザイ……。 話しかけられるのが苦手な最近のお客さん、大手スーパーなら何でも揃うし、無駄話もない。 「いっぺんに揃うし、気を使わんと買えるし、私はスーパー派やわ」 「私は商店街も行くかなぁ。特に八百屋さんはめっちゃおもろいし」 井戸端会議にも度々出てくる、商店街入口の八百屋さん。 なかなかの人気店らしい。
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