捨てる神あれば拾う神あり

2/4
前へ
/14ページ
次へ
「まずは野菜やんな!パプリカ美味しそう〜。うわっ、サラダ菜ええ色や!」 夏美がパプリカを手に取るのも、サラダ菜に目を輝かしているのも二郎アイがキャッチしていた。 ──このお客さん、久しぶりやな。前は確か、ナスをたくさん買ってくれたな。 たまにしか現れない夏美を覚えていたのは、地味な外見とは違い、野菜を見る目がキラキラし、美味しく料理してやるぜ!そんなアツい雰囲気が好ましかったからだ。 野菜好きに悪い人間はいない、つまり早い話が夏美は二郎の好みにピッタリだったのだ。 ひとめぼれとも言う。 二郎はゴクッとツバを飲み込む。 この前は確か『お嬢さん』と呼びかけて、思いきり睨まれた。 無言で大量のナスを二郎に差しだし、軽く舌打ちまでされた。 今回は失敗したくない。 前回のピンチをチャンスに変える男、ポジティブ二郎。 「お、奥さぁ〜ん?」 いくつになっても、好きな人の前では緊張してアタアタとなり、最後はチャラけて誤魔化す。 そんな男の(さが)に、抵抗出来なかった二郎。 噛んで慌てて間違えて、おまけに声まで裏返った。 しまった!と思ったがもう遅い。 奥さんと呼んでいいのは60代のマダム達だ。 痛恨のミスだった。 今まで微笑んでいた夏美の顔から、スーッと表情がなくなった。 手にしたサラダ菜を元に戻すと、回れ右で店を出ていく。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加