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「ちょっ、ま、奥さん!」
ちょっと待って奥さん。
そう言いたかったがもう噛み噛みで、最後の奥さんだけが辺りに響く。
もちろん、MAXだみ声でだ。
夏美は振り向きもせずに商店街の奥へと歩いていき、やがて人波に見えなくなった。
「はぁぁぁ〜。またやってもた……またなんか怒らせてもた……」
頭を抱える八百屋の二郎に、常連客は大笑いだ。
「ドンマイ二郎さん。陽はまた昇る」
一方夏美は、ジワジワと湧き上がる怒りに身を任せ、ドスドスと大股で歩いていた。
──商店街なんか来るんじゃなかった!
「ふざけんなっ、ダミアン!いーっだ!!」
ようやく昨日吹っ切れたのだ。
結婚への願望も、成果のない婚活も、綺麗サッパリ卒業するのだと。
独身貴族万歳、やりたいように生きてやると誓ったのだ。
「今更奥さんて!!ふざけんなっ!しかもダミアンに呼ばれたくないわっ!だみ声で呼ばれたくないわ!」
今日も染みる日なのか?
夏美は酒屋へ急ぐ。
どうやら今日も、染みる饗宴になりそうだ。
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