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「お嬢ちゃん、お目が高いな〜。それ、おっちゃんの推しやで?」
カボチャを手に、迷う様子を見せていた40代後半のマダムがピクリと反応した。
半径2mにいたマダム達もソワソワする。
「お嬢ちゃんのシラウオのような手で料理されたら、カボチャも幸せもんや。産地はここやからなっ!」
「もう……シラウオて。口が上手いなおっちゃんは。そうやね、そのキュウリも買うから……まけてな!」
二郎のお嬢さん攻撃に撃沈したと見せかけて、そこは関西マダム、お値段の値引きという反撃は忘れない。
もちろん、お嬢ちゃんやらシラウオの手には気を良くしている。
父親が亡くなり、この八百屋を継いだばかりの時は、どの年代の主婦にも『お母ちゃん』と呼びかけていた。
二郎的には『お母ちゃん』ならば柔らかい印象だし、野菜を買いに来るのは大抵が主婦だし、と安易に考えていた。
ところが、時代の波には逆らえない。
主婦も社会に進出し、パートから社員へとスキルアップしていく。
彼女達の中には、『お母ちゃん』と呼ばれる事に嫌悪感を示す人もいた。
──ちょ、なんで赤の他人のおっさんに、お母ちゃんなんて呼ばれなアカンの?
──あんたのお母ちゃんちゃうし、キモッ!
関西マダムにハッキリ言われて、誰も彼もお母ちゃんと呼ぶのは止めた。
止めたけど、声をかけるのを止める訳ではない。
「しょうもない会話でも、アハハと笑って明日への活力!あきんどのおべんちゃら力舐めんなよ!」
無駄にポジティブなO型二郎、諦めるなど頭にない。
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