山本二郎

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野菜を買いに来てくれる主婦達を日夜観察し、あみ出した最高のスキルが、『関西マダムの年齢を瞬時に見破る』荒技だ。 使い方を間違えれば自分に返ってくる。 お土地柄、10倍返しで効くだろうか。 誤差は5歳以内に留めなければならない。 初見30秒以内に判断し、堂々とだみ声を張り上げるのだ。 「ママさん、今日はパプリカでオシャンなサラダでもどうや?」 オシャンからはほど遠い二郎が言うから面白い。 20代〜30代の主婦には『ママさん』と呼びかける。 もちろん、独身かもしれない雰囲気の時は『彼女さん』と呼びかけた。 「お嬢ちゃんのほっぺたみたいなトマト、美味いで~」 40代の主婦にはお嬢ちゃんと呼びかける。 「お嬢さん、このナスは買わな損やで?」 50代の主婦達には、ではなくだ。 そろそろ時間にも金銭的にも余裕が出てくる年代に、ちゃんは少し幼稚だからだ。 「奥さ〜ん、堪忍してや~。これ以上まけたくてもまけられへんやん……」 60代のマダムに『奥さん』。 最近この年代は、やたら元気だ。 よく喋り、よく笑う。 ゆらぎを抜けた反動かもしれない。 「お母ちゃん、元気やったか?風邪やったんか?ほな、栄養つけなアカンで?」 トリを飾るのは70代以上の主婦達だ。 二郎が苦い思いをした『お母ちゃん』が、この年代では大活躍する。 段々と、自分で出来る事が少なくなって来るのを憂う彼女達は、二郎に『お母ちゃん』と呼ばれると、もう少し頑張れそうな気がするのだ。 稲尾商店街の入口で、二郎のだみ声が今日も高らかに響いている。 売り上げと主婦にひとときの乙女気分をる為に。
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