高橋夏美

1/5
前へ
/14ページ
次へ

高橋夏美

運送会社の事務員としてもう勤続28年。 皆勤賞18回、社長賞7回の記録はまだ誰にも破られていない。 ──真面目かっ!いや……お局やん。 毎年初々しい新人が入り、社長や男性社員にチヤホヤされまくり、トラックドライバーのおっさん達にまで可愛がられても、お局は動揺しない。 若くてかわいい特権を活かし、片付いてもいない仕事をほっぽり出して定時に帰り支度する新人。 残された仕事を黙々とやる高橋夏美(たかはしなつみ)は、今年で50歳になった。 皆勤賞も社長賞も勤続年数も、今のところ自分の人生に何も役立っていない。 欲しいのはスカスカの名誉ではない。 この滲み出て溢れ出し、激流になっている結婚願望を満たしてくれる誰かだ。 定時にさっさと帰る小娘などにかまっていられない。 どうせ彼女達は、後3〜4年もすれば寿退社するのだから。 ──高橋さん、25回も寿退社を見送って〜花束渡してさ、これも記録更新中やんな!ププッ。 裏記録として囁かれているのも、夏美は重々承知している。 今年こそ花束を渡される側に、私はなる! 「何年目だ?この誓いも……」 40歳くらいまでは必死に婚活した。 親戚の仲介でお見合いも腐るほどした。 成功しない、噛み合わない、上手くいかない。 腐るのは気持ちばかりだ。 連敗記録を更新すればするほど、気持ちが萎えてくる。 最近ではかなり投げやり気味だ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加