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「富士山に変わった形の笠雲が発生したようです。」
と誰かが話している。
気になって巨大スクリーンに目をやる。
晴れた空に映える富士山。
たしかに笠雲がかかっている。富士をすっぽり覆う大きさで、笠が二重に掛っている。その上富士の火口にまっすぐ繋がっている、噴煙とも雲ともとれる、まるで柱の様な気体は、それこそ傘の柄に見える。傘は象形文字だ。今富士山に掛かっている雲は笠雲ではなく、間違いなく傘雲だった。
人は不思議なものに遭遇すると、すぐにオカルト的なものと繋げたがる。
「富士山の傘雲と地震雲の因果関係は…」
と、役に立たないコメンテーターが話し始める。…くだらない。
「30年一回は爆発していた富士山が、最後に噴火したのは300年前ですからいつ噴火しても…」
あー、やばい。苛々する。鼻水が尋常じゃなくなって来た。もう鼻の中はキャパオーバーだ。飽和した鼻水が喉に流れこむ。仕方なく嚥下する。口呼吸も出来なくなっては大ごとだ。鼻の奥が熱を持つ。腫れ上がっているのがわかる。人間はつくづく鼻呼吸の動物だと思い知る。太った身体には辛い。目も異常に痒い。普段なら目薬を持っているのに、今日に限って忘れて来た。ついてない。気がついたら目を擦っていた。とりあえずティッシュと薬だ。ドラッグストアを探そう。
そう思った時だった。
いきなり地面が揺れた。ゆっくりと段々大きな揺れになる。
ドーン!
私はバランスを崩して、工事中の立て看板に向かって倒れてしまった。
恐ろしくて動けずにいたが、しばらくすると揺れは鎮まった。高層ビルがみんな揺れている。いつかの再現だ。あの上にいる人たちは、気が気じゃなかっただろう。これから地下鉄が止まり、バスが止まり、JRや私鉄が止まる。それにしても家まで歩くには遠すぎる。
鼻水はいよいよ限界。マスクを外して手鼻をかんだが次から次に鼻水が出てくる。目も痒みが治らない。
通行人が奇異な眼差しでこちらを見てるのが癪に触る。
「ジロジロ見るんじゃねえー!」
信号の先にドラッグストアを見つけた。信号を待つだけで苛々する。信号も行き交う車も破壊してやりたい。
ようやく着いたドラッグストアは商品が散乱して、とても商品を売れる状態ではないと、シャッターを閉め始めている。
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