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店の人間に苛々がつのり、普段の自分では考えられない暴言を吐いた。
「待てよ!これだけは売れよ。馬鹿野郎!」
落ちてる薬を拾って女性店員に一万円札を投げつけた。
「きゃあー!」
店員が私を見て悲鳴をあげる。
「テメェ!そんなに…」
怒鳴りかけた時、店員の後ろの鏡に自分の姿が映る。
白い不織布マスクが真っ赤に染まっている。両目は腫れ上がった上に、充血して、鬱血してとても人間の顔ではなかった。鼻から垂れた血は出っ張った腹のシルエットを鮮明にしている。自分自身の恐ろしい姿を見て、私は小便を漏らした。
「きゃあー!」
他の店員の悲鳴で何が起こったかは想像がついた。股間が真っ赤に染まっている。
自分が酷く醜く感じる。
異常はまだあった。
出っ張った腹だ。まるで傘のように真ん中が尖って膨らんでいる。贅肉だ。余っていらない肉だ。
今までの傲慢と怠惰と暴食と憤怒と嫉妬と強欲と色欲の、まるで見えないμmの罪の蓄積の結果だ。
もう一度鏡を見る。
もはや化け物だ。
相変わらず鼻はつまったまま、嚥下する回数も増え、嚥下する度に腹が膨らむ。
「ロシアが核ミサイルを発射したようです。」
ドーン!
地震だ。今度は下から突き上げるような縦揺れだ。高層ビルはあまりの衝撃に耐えきれず倒壊して行く。落ちて来た瓦礫が私の腹を裂いた。
周囲のスマホからアラートが鳴り響く。
「富士山が噴火した模様。富士山が噴火した模様…」
私の腹は傘の先端が丸く裂けて、穴が開いた。内側は真っ赤に燃えている。中から地獄絵で見た鬼が出て来た。生々しい小さな鬼が次から次へ、地上に出ると巨大化して、周りの人間を襲いはじめた。私は霊峰富士山で何が起こっているのか理解した。地獄の窯が開いたのだ。この世の終わり。
空から大音量のハープの音が流れる
子供の頃に聞いたアニメソング
いよいよ意識も薄れてきた…
大地と海と青空とー
友とー誓ったーこの平和ー
地球はこんなにー小さいけれどー
正義と愛とでー
輝く惑星だー
まだ無垢な頃…
- 完 -
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