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【past】~過去~
俺は過去から現在まで相手を『見た目』で選んで来た。見た目は悪くても走る奴は走った。
一見『シュッ』とした面の奴の方が燃費が悪かったりもする。でも今日は一番可愛い気のある奴と最後のバイパスを通過し、終わりを共有できるのを待つ。
さよならの合図までの準備はとうにできていた。
真上から見ると整列的に扇形に成って並んでいる機関庫。夜間機関車を一台一台線路へ出す作業をやっておき、朝方は真っ赤な太陽を拝みながら真黒な作業服を手洗いでゴシゴシと洗濯する。
午前6時06分の始発ベルをSTARTに全車一斉に出動する。
ほっとして俺は母親が前の日に握って渡してくれた金平糖入りのおむすびを頬張り、奴の最後を待つ。気長にゆっくりおむすびの具を舐め、それが夜空に星となって瞬く頃奴が帰ってきた。
転車台に乗せて、クルっと2回転させ機関車を機関庫に格納させようと思う。
また運転手に叱られる。
「どうして余分に回転させるんだ。1回転で格納すればいいべや」
俺は名残惜しくてもう1回転させてしまった。
「しまった…」
運転手はしょうがない奴だとあきれ顔でその場を去る。
くたびれた車両の最後方部が鋭角にbyeレールに乗って格納完了した瞬間、お別れの時がくる。
果たして明日も俺と新しい別の機関車は前向きで発てるだろうか。
back allright…俺は決して過去は振り返らなかった。
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