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【smoke gets in your eyes】今ここ~
今ここにふたつの祈りがある。
俺は煤で作業服や顔を真っ黒にしながら懸命に石炭をくべている。愛用の錆びたシャベルにも煤がこびり付き、手汗と混じって余計にすべることも我慢しながら作業に夢中無口になる。
汚い軍手を難儀に裏返し手首までめくり上げ、掌のドテっとした部分で額を拭う。額は益々黒くなる。休みなくくべる。
平和へのバイパスへと進む機関車の石炭火を絶やさぬよう、寝ずに見守る役目が俺の仕事。
機関車運転手補助員という名にかけて、辛い時でも俺は左胸の所を強く右手親指の付け根でトントンと叩き鼓舞する。
「決して、絶やさぬこと」これがぼくの使命!
私は葬儀会社で働く派遣社員。社会の変化で人の不幸事は多く、よくこんな困難な仕事してるねとバイアスを受けたりもするがなにせ休めない。
祭壇の蝋燭を絶やさぬよう、寝ずに見守る役目等々が私の仕事。
最近の若い子は交代で見守ってくれることもない。たまに手伝ってくれる子もいるが、私のように立っている蝋燭を差し替える際、丁寧かつ慎重に新しい蝋燭の底で古い蝋燭火を消し瞬時に置き替える術を知らない。
よく「ふう」と息を吹き付けて古い蝋燭の火を消してから、置き替えちゃうのが若者の常識だ。でも説教はしない、効率化も重要。そっと私の胸の中に嫌なことは留めておく。
「お別れの瞬間まで、絶やさぬこと」これがぼくの使命!
思い思いのmacroな想いをくべたり、小さな礼拝をしたりする者たちが、必然的に使命を全うせざるを得ないのはplayerとprayerも同じ。
僕は蒸気が『ボわッー』と出たとき、今日も頑張れると思う。
僕も細くて香の良い線香から煙が出てくると癒されたと思う。
「まだ、まだ、はやい。出発は30分後だ」
またこっ酷く、いつもの運転手や喪主らに叱られる。
負けるもんかと、俺は指示通り火力を調整する。自分がこの長い旅路の途中で飲まなければならない水を燃料庫投入口に入れる。火は沈静化し、種火状態となる。発車までの30分間、薄茶色い毛布にくるまり仮眠を取る。「眠れない…」「でも火を見ていると落ち着く」「ところで会ったかい?」石炭の煙が目にしみる。
私は指示通り、口うるさい喪主から言われたとおり、親戚のおじいちゃんやおばあちゃんたちが足腰を痛めないよう、正座椅子を勧めたりする。火葬場へ移動するバスに乗る際には車椅子を用意したり、送迎バスのSTEPを上がる時には手を差し伸べたりして腕や肩を貸して支える。
「ありがとう・・」おばあちゃんの笑顔を見ると落ち着く。
「ところであったかい?」線香の煙が目と心に沁みる。
遠くに見えるバイパスがとても遠く感じる。仮想場所の煙突から風に乗って流れ来る煙に目を覆いたくなるが、決して覆ったりはしない。
それは僕らを指名し導いてくれている仕事だから。
『決して諦めない…日本i』
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