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【tomorrow】~未来永劫~
私は今年もいい出会いはなかったと思いつつ、来年こそ未来の相手は絶対『心』で選ぼうと誓う。
見た目は悪くても凄く優しかったり、無口な人でも親切だったり、一見イケ面に見えても意地悪だったりしてがっかりもするであろうから。
でも今日の葬儀の中で一番可愛い気のある方とまさか明日を夢見ることができるなんてちっとも思ってもみなかった。
さよならの出発までの準備は十にできていた。
午前10時に告別式。そして11時に出棺し最後のお別れとなる。
その間の時間にどうしようもない涙泪の連続がある。私はその瞬間だけなぜか安らげる。喪主も親戚も友人も同僚らも皆一心に偲び合掌して素になるから。
「がらにもなく泣くなよ」
「別離に泣いてないから」
「我慢するなって」
「わかった話」
そんな会話や別離の場で肩を抱き寄せハンカチを差し出し断られたりしている様子を垣間見ることもある。
一番切ないのは、棺の中に別れのしるしで遺族や友人たちが次々と花を添え入れる時。
まさか若い男の人であんなに泣き崩れる姿を見るとは…
「大丈夫ですか…お花をどうぞ」
「すみません。涙が止まらなくて…」
私はそっと彼に膝を貸す。彼はあまり私に負担をかけぬよう触り体勢を整えようとする。
「あっ あったかい…」
私は気丈に高い声で「そろそろ棺の蓋をさせていただきます」と声掛けする。
その彼が棺の蓋を泣きじゃくりながら釘打っている姿や霊柩車に移動させて入れるときに膝が諤々してる所や火葬場で本当のお別れの際に数珠を何回もこすり上げて拝んでいる様子や繰り上げ法要の伏し目がちな目尻も全部まるごと、思わず抱きしめたくなって見ていた。
このご時世の割りに多い親戚数にビックリの1日であったが、最後の参列者に喪主がお礼の品を渡し挨拶した瞬間、私は夢中で彼を追いかけた。
彼の後れ毛が春風になびいて美しい。彼はもう自分の車に乗り帰宅しようとしている。いつだってお別れの時は必ずくる。
明日も同じ日常だけど前向きに口角を上げ出発を待つ。
「いってらっしゃい ませ」
勢い良くセレモニーホールのロータリーをバスが発つ。未来永劫行。
【時の静寂】
答えは『イコール』だけではない。およそやマイナス、小数点以下など余りある。
機関車運転手補助員だった彼とわたしは今『≒』の関係。
まさかあれから11680日後の法要の予約電話が再縁で再会し、今ここで抱擁できるなんて夢にも思わなかった。
「わたしたちは私の葬儀会社の霊の終活お試しプランで棺の中に今一緒に入っている…」
彼と私の膝と膝、肘と肘が優しく触れ逢う。一生分の温もりを肌一杯に感じ合う。
「わたしたち、こんなに齢とっちゃって再会がもっと早かったら良かったわね」
「再会に早い遅いは関係ない」
霊柩車でふたりは運ばれ、白い百合花や黄色い寂静花、ピンク色の花華花に囲まれ、死に化粧までも施されて無言になり、うるうるする。
ふたりは手と手を取り合い、互いが互いを想い祈り曰く。
「REALな化粧が涙で台無しだな」
「REALな化粧が涙で台無しだね」
モザイク柄の密室の小窓がふたりの現実をぼかす。
新たな空気を吸い吐く。静寂がふたりを包み開放する。
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