春の宵

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「パパ、これなーに?」  出張から直接帰宅した卓哉(たくや)が差し出した土産の菓子に、不思議そうな顔の娘の乃愛(のあ)。 「金平糖。綺麗だし可愛いだろ? 小っちゃいお星さまみたいでさ」 「こんぺーとー。ほんとだ、おほしさまみたい。かわいい〜!」  娘の笑顔に、卓哉もつられて頬が緩む。 「金平糖なんて久し振り。むしろ懐かしいお菓子って感じだけど今もあるのね」  妻の志乃(しの)までもが、繊細な砂糖菓子に目を輝かせている。 「京都の有名なお店のなんだよ。上司に、ついでに寄れるから行ってみろって言われてさ。これって見た目は簡単そうなのに、作るの凄い難しいんだってな。俺もよく知らなかったんだけど」 「そうなの!? やっぱり私が小っちゃいころ食べたのとは全然違うわ。本当にどれも可愛くて素敵!」  ──正直「金平糖って駄菓子じゃないのか!? こんな高いの?」としぶしぶ買って来たのだ。  実際には購入した数種入りの箱詰めも、店に入って何も買わずに出るほどの値段でもなかった。あくまでも『駄菓子としては』高価だと感じたに過ぎない。  それが妻にも娘にも、ここまで喜ばれるとは意外だった。はやはり綺麗で可愛らしいものが好き、ということなのか。  あるいは、卓哉()がわざわざ買ってきてくれたという付加価値が大きいのかもしれない。志乃はどちらかと言わなくとも、所謂『女性らしい』タイプではないのだ。  さすが課長。仕事面は言うに及ばず、夫としても娘を持つ父としても頼りになる『先輩』である。
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