勇気の書

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 それから放課後まで弥生も克志も沈黙を貫いた。  昇降口から傘をさして外へ出ると、大雨に辟易した。やっと、弥生が話し掛けて来た。 「ネクラのあんたがねえー。明日は学校が休みで良かったわ。きっと、核ミサイルを背負ったワンちゃんか巨大なタライやたわしが空からたくさん降ってくるわよ」 「フフッ、そうでもないわよ」  ぼくの隣には、いつの間にか白い傘を差した白花がいた。  真っ白なハットは今は脱いでいた。  金髪が肩まで垂れ下がっている。 「ねえ、ルインの書はどこへ消えたのかしら? あなたならきっとわかるはずよ」 「零でいい」 「零……この大雨はこのままずっと振り続けるわ。元凶を絶たないといけない」  しばらく二人で、常緑樹が立ち並ぶ歩道をとぼとぼと歩いた。 「どこまでついてくるんだ?」 「これからマレフィキウム古代図書館へ様子を見に行くんでしょ」 「……」 「あなたと一緒にいたいの……」  たくさんの店のショーウインドーは大雨の影響で多量の雫が付着し。人通りはまばらなこの道は、よく通学路に使っているけれど、今日はその全てが酷く陰鬱な気持ちにさせられる。  少し先にここよりも賑やかな商店街があって、そこを左に曲がるとマレフィキウム古代図書館の真っ黒な堂々とした正門が見える。  漆黒の正門とも言えて、古めかしくもどこか目に見えない威厳に包まれていた。 「お前はいいとして……」  ぼくは白花の更に後ろに目をやった。  弥生と克志がニヤニヤしてついてきていた。   「零くーん。デートかなー? なんだかこの辺だけ熱いわねー!」  チッ、弥生のやつ……。  何故かぼくはそれを聞いて頬が熱くなった。 「ふふん。行きましょ」  白花がぼくの腕に手を回して、マレフィキウム古代図書館の正門をくぐった。  図書館の中は、落ち着いた気持ちにさせるカビのような匂いが充満していた。白花と二人で三階へ上がると、当然だが靖たちもついて来た。克志は何も持っていないが、弥生は学生鞄以外にも竹刀袋のようなものを背負っていた。 「なあ、この上って……俺も初めてだけど……」 「え?! 絶対行っちゃいけないんじゃ……」  克志と弥生は三階へは決して行ってはいけないと親から言われているのだろう。  やっぱり、二人は何かしら役目を持っていた。 「この上には本物の魔術書が保管されているの。魔術書は人を選らび。そして、大抵はその人に凄まじい力を与えるだけの道具でもあるの」  白花は相変わらずしっとりとした雰囲気で落ち着いていた。    三階の奥。  蔵書などを保管した非常に厳めしい扉を開ける。  ここに十冊の魔術書が昨日まではあった。   いつも監視を怠らないようにと、親からも館長からも厳しく言われていた。  それが、昨日の午後七時には、三階の更に奥の本棚から光の中へと魔術書は消えていった。  親と館長にもまだ言っていない。  いや、怖くて言えなかったんだ。
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