勇気の書

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 自分の席について科学の授業と母から開いて覚えたことだった。  今後の策を練ることも忘れていない。  魔術書は後、九冊。  誰の手に渡ったのかは、まったくわからない。  けれども、放っておくと世界が必ず変わりを告げるんだ。  ふと、頭にシャーペンの芯が突き刺さっているのに気が付いた。  かゆいが痛みはない。  振り向くと、後ろで弥生がぼくをバカにしたようにニコニコとしている。  ぼくの成績は両親の遺伝子を生体電流と魔術に必要な科学の知識以外はまったく受け継いでいないかのようで、学園では史上最悪の最下位だった。そのことで弥生の奴は、またぼくにちょっかいをだしているんだ。  弥生を無視して窓の外を眺めた。  科学は大好きなんだが、学業はつまらないんだ。  暗雲と大雨の飛沫が校舎全体に憂鬱さを醸し出していた。  実は、ぼくは第三カリタス学園の勉強はほとんどしなかった。いや、したくなかった。理由は、解読不能で難解な十冊の魔術書のタイトルの研究をしているからだ。それと科学の勉強をこれからのために必死にしているんだ。  学校では勉強はしないんだ。  けど、進学では何も心配はないんだ。科学の大学教授の父の助手をすることがすでに決まっているし、母からは大学へ進学したらマレフィキウム古代図書館の誰も知らない本を教えてもらうことになっていた。  魔術書には未だ解読できていないタイトルがたくさんあるけれど、世界でぼくしか知らない高難易度のタイトルも解読した時があるんだ。  やっと退屈な授業が終わったと思ったら、気がついたらもう昼休みになっていた。けれども、ぼくの耳には土砂降りの雨の音がいつまでも残っていた。ずっと耳だけはしっかり雨音を聞いていたようだ。 「ねえ、零? あんた。いつにも増して暗いわよ。ちゃんと食事を摂ってるの。栄養バランスは大事よ。お金ないんだったら、利息は取るけど貸すわよ。今なら五分無利息で」  弥生がぼくの席の机に座った。  薄い茶色の長髪で切れ長の目で、いつもぼくを睨んでいるかのようだ。  単純な物理攻撃などでは絶対に敵わない相手だ。  何せ弥生は鬼を退治する一族で、剣術の腕は師範顔負けの強さだったりする。 「弥生……パンツ見えてるぜ」 「嘘。あんた下を向いているじゃない?」 「そこにいると、飯が食えないんだ。それとも一緒に食うか?」 「いいわよ。でも、さっき食べた。食事はいつも三分チャージなの」 「……」  たわいない会話の後に、克志までぼくの席に来てしまった。   「ほおー、最下位でもそんな難しそうな本は読めるんだな」 「まあ、いいんじゃないの。零は頭は決して悪くはないわよ。ただ、バカなだけ」 「おいおい。そりゃねえだろ。ただのバカが天才科学者の息子ってあり得ねえだろ」 「ふぅー、きっと勉強しない理由が他にあるのよ。でも、それは何かしらね? バカの考えることはさっぱりわからないわ」  克志と弥生が好き勝手にぼくの目の前で話している。  「……」  ぼくは無言で下を向いて読んでいた勇気の書を持って廊下へと出た。  廊下も薄暗かった。  今日に限って大雨だ。  昨日は快晴だったのに……。  それも午後の七時までは……。   雨と本が消えたのは何か関係があるように思う。
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