鮮魚の宇佐美さん①ー2

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鮮魚の宇佐美さん①ー2

「もーいーよ! 買わねーよ! 他のもいらねーよ!」  何事? さっきの介護職さんの声だ。私がそちらを見ると、すでに周りのお客さん達が怪訝そうに見ている。宇佐美さんはというと、 「そうですか、ありがとうございましたー」  にこやかに会釈をし、見送ったのである。私の視線に気づいた宇佐美さんが半笑いで近づいてきた。 「あの客突っぱねてやったよ、ハハハ」  笑ってる。 「だってよー、毎週金曜のこの時間に来ては刺し盛り用意しろって言うんだぜ。先々週に言ったんだよ『事前に予約入れてくれ』って」  忙しいのに話しの長い宇佐美さんなので要約するとこうだ。  宇佐美さんは、 ・当日の朝でもいいから電話くれ。 ・材料や制作時間の都合もあるから電話くれ。 ・何十分も待たせることになるから電話くれ。  介護職さんは、 ・決まるのが直前なので分からない。 ・でも決まるのは水曜日(買い物は金曜日)。 ・三十人に一人四切れずつ渡るよう予算一万円で。 ・電話、電話って何度も聞いた。 ・言えばやるんだろ?  全くお話にならず、挙げ句ぶちギレられたそうだ。 「いらねって言うから、はい分かりましたって帰って頂きました」  爽やかが似合わない笑顔で語る宇佐美さん。 「あのオヤジ、人に何か指示されるのがとことん嫌なんだろうな。あれで帰ったら年下の先輩か上司に怒られるんだぜ、ハハハ」  悪戯っ子の顔で宇佐美さんは作業へと戻って行った。
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