今日も今日とて僕を呼ぶ

3/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ***  と、そんなことがかれこれ二週間ばかり続き。流石の僕も疲れてきたのだった。今日の朝に至っては、もういい加減にしてくれと苦言を呈したほどだ。しかし。 「何なんだよもう、お前の妹!」  その時は、お尻に思いきりキックを入れられた。小さいくせに地味に威力があって、今でもちょっとお尻がじんじんするほどである。いいところのお嬢様が、何であんな横暴で乱暴な性格になってしまったのか。大体、あの喋り方も今時流行らないと誰か教えてやれよと思ってしまう。アニメや漫画の世界ではないのだから。 「僕のことパシリかなんかだと思ってるんじゃないのか!?何でいっつも僕のことばっかり呼ぶんだよ、お前どういう教育してるんだよあいつ!」 「あーうん……」  放課後の教室。ついに我慢の限界を迎えて、僕は兄の輝明に説教していた。勿論、彼が悪いわけではないことはわかっている。しかし、そもそも僕は誰かさんに、この兄貴を呼ぶだめにパシリに使われているのだ。妹が兄貴を慕っているのはよく知っているし、ある程度責任を取って欲しいと感じるのも当然のことだろう。  ましてや、どう考えても真理亜が自分を認識したのが兄経由と思われるから尚更だ。一体どんな風に教育したら“こいつ相手には我儘に振舞っていいよ”なんて認識を持つのかぜひとも教えて欲しいところである。 「……なんていうか、すまん」  輝明は、露骨に視線を逸らして言った。 「うちの妹、ものすごく影響されやすいというか、いろんなものに染まりやすいというか思い込んだら一直線というか。……元々、結構男勝りでガサツなタイプでさ。母さんも父さんも心配してたんだよな、このままじゃ社交界に連れて行けないって。料亭で飯食ってても、正座なんて十秒も持たないし、落ち着きないしさ。だから、おしとやかにさせるために……お嬢様ぽいキャラが出てくるアニメを片っ端から見せたんだよなあ」 「あー……マジでそっちの影響……」 「うん、本人もちょっとなんとかしたい気持ちがあったんだろうな。まず形からってんで、あんな喋り方を真似するようになっちまったんだ」  道理で、と僕は納得してしまった。昨今、女性の“女性らしい言葉遣い”は廃れつつあると知っている。“~わよ”とか“かしら”とかそういう類の女言葉を喋る女性が圧倒的に減っているのだ。見かけるのは、それこそフィクションの世界くらい。特に子供がそういう喋り方をしていたら違和感バリバリなのも当然というものである。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!