今日も今日とて僕を呼ぶ

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今日も今日とて僕を呼ぶ

「そこの下々の民!私の兄を呼んでらっしゃいな!」  え、ひょっとして僕のこと?  突然後ろからかかった声に、僕は渋い顔で振り返った。なお場所は、学校の廊下。目の前に立っていたのは、ウェーブした長い髪に赤いリボンをつけた小柄な女の子。低学年くらいかな、というのはすぐにわかった。六年生の僕も比較的小柄な方だけど、彼女はそれよりも輪をかけて小さかったからだ。 「そう、お前、そこのお前よ!あんた、六年三組よね?」 「……そうだけど?」  なんだその喋り方。どっかの悪役令嬢の真似か?と僕は呆れてしまった。まあ、本当にどこかのお嬢様というのはあるかもしれない。どこぞの制服のようにお洒落な上着もチェックスカートも、明らかにブランドものの気配が漂っていたからだ。 「さっさと呼びに行きなさいよ、これは命令だから!私の名前は北条院真理亜(ほうじょういんまりあ)、兄の名前は北条院輝明(ほうじょういんてるあき)。よく覚えておきなさい、いいわね?」  はあ、と僕はため息をついた。  そして彼女をまじまじと見て思う。なるほど、紫色っぽい瞳の色といい顔立ちといい、どことなく兄貴に似てるかもしれない、と。面倒くさいが、小さな女の子の用事を無視するのも気が引ける。幸い教室は目の前だったので、僕はそのまま輝明を呼びに行ったのだった。  まさかこれが、始まりだとはつゆほども思わずに。
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