今日も今日とて僕を呼ぶ

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 ***  北条院家。こんな珍しい苗字で、お嬢様とくれば、分かる人には一発だろう。大手家具メーカー“HOJOIN”だ。元は東京の小さな家具屋だったのが、初代がやり手であったこともあって今や全国展開されるトップ企業に成長した――なんて話を聞いたことがある。  当然、お金持ちなのも間違いないのだろう。こんなフツーの公立の小学校に、そのおぼっちゃんとお嬢ちゃんを通わせるのは何でなのか疑問で仕方ないが。 ――そういや、真理亜ちゃん、なんで僕が三組だってわかったんだ?  体育の授業が終わり、教室に戻るところで僕は首を捻る。 ――彼女とは初対面だったよな?名札はつけてたけど、声をかけられたのは後ろからだったから見えなかったはずだし……輝明から僕の話を聞いてたとか?でも、後姿ですぐわかるほど特徴的な髪型とかじゃないと思うんだけどな。  ちなみに、真理亜の兄である輝明とはそれなりに仲が良かったりする。というか、真理亜とはうってかわって“気を抜くとおぼっちゃんだということをすぐ忘れる”くらい庶民に馴染んでいる少年だ。学校終わりにサッカーやろうぜーと誘えば普通についてくるし、給食の時間に下ネタを言って女子にドン引かれている様もちょいちょい見かける。  時々“お家トーク”をした時に格差を感じることがああるが(例えば、ゲーム機の類がファミコンやゲームボーイからプレステ最新機種&スイッチまで全て揃っているところとか、夕飯の内容とか)それくらいだ。普段は明るく元気で、良い意味で普通の少年である。ゆえに、僕と彼が親しいと知っているのなら、呼びつける相手に僕を選ぶのもわからなくはないのだけれど。 「ちょっとそこの、下々の者!」  またかよ、と思った。下駄箱で上履きに履き替えたところで、僕は彼女に呼び止められる。多分、入れ違いで外に出ようとしていたのだろう。彼女も体操着姿だった。背が小さくてちょっとサイズがあっていないので、やや半ズボンがだぼっとしてしまっているが。 「そこのお前よ、水口駿(みなぐちしゅん)!さっさと私の兄を呼んでいらっしゃい!今すぐによ!」 「……お前、僕の名前知ってたの?」  ちなみに水口駿、が僕の名前である。やや呆れつつツッコミを入れれば、ごちゃごちゃ煩いのよ!とチョップが飛んできた。手が短いので肩までしか届かないとはいえ、なんとバイオレンスなお嬢様なのか。 「いいからさっさと呼んでらっしゃい、これは命令だから、いいわね!」  ああ、面倒くさい。急いで教室に戻らないといけないのに。  僕はげんなりしつつ、すぐそこにいるであろう輝明を呼びに行った。まったく、ちょっと探せば見つかるのだから自分で行けよと言いたい。
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