【2】Trial 〜試〜

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〜5年前〜 冬。 関東は、急速に発達した低気圧と、記録的な寒波が重なり、成田・羽田空港は懸命な除雪作業を行っていた。 国内線は全便欠航の中、正月を海外で過ごした国際線が、続々と集まって来た。 上空で旋回する航空機を、順番に慎重に降ろす、管制官とパイロット、気象予報士、空港整備隊の命の駆け引きが続く。 まだ若いが有能な管制官、高田努は、ハワイからの到着便を担当していた。 「主任、ユナイテッド航空便が、もう燃料が限界に近く、着陸許可を求めています」 「いや、ハワイアン航空の方を先に下ろすんだ。ユナイテッド航空のボーイング777より、着陸距離が短い。A滑走路34Lを使え」 「降着のハワイアン航空は、まだ余裕があります。ユナイテッド航空は1時間近く旋回してるんですよ❗️」 「すまん高田。上からの指示だ。議論している暇はない。従ってくれ」 「クッ…分かりました」 時間はない。 富坂主任の苦しい立場は、理解できた。 「This is the Narita Control Tower. Hawaiian Airlines Flight 288, land now on the A34L runway」 「Hawaiian Airlines Flight 288 OK. thank you」 「続いてB滑走路に、ユナイテッド航空を降ろします」 「よし。倉木、早くB滑走路を空ける様に言うんだ!」 その時、緊急通信が入った。 「This is United Airlines flight 475. Emergency. Try to land immediately」 「燃料切れか!仕方ない、B滑走路を早く空けろ❗️」 富坂の(げき)が飛ぶ。 「Land on United Airlines Flight 475, B34R! Beware of strong winds from the right」 B滑走路へ導く高田。 吹雪で視界はほぼゼロ。 双眼鏡を覗く高田の目に、475便のライトが見えた。 「ダメだ!低すぎる❗️」 「救命隊B滑走路へ、出動せよ❗️」 「Raise your nose and re-approach United Airlines flight 475❗️」 もとより、再アプローチは不可能と分かってはいた。 その直後。 吹雪の滑走路の彼方に、爆炎が上がった。 生存者1名の、最悪な航空機事故である。 事故の内容を、モニターで見ながら、鎮痛な面持ちの皆んな。 もちろん管制室でのやりとりは、知るところではない。 「このマークは、その事故のために作られた、石碑の形だ。成田空港の先に設置され、毎年供養式が行われている」 「犯人は、その事故の犠牲者の親族か、関係する者の可能性が高いわね。戸澤と土屋は、事故の全容と、当時の管制官や被害者をあたって。くれぐれも、慎重に」 「了解。皆んな思い出したくはないだろうからな。怪しい者のみに絞ってみるか」 「昴は、あのバイクを見つけ出して」 「引越し便は、私が手伝うわ」 「草吹さん、あなたは部外者よ。気持ちは嬉しいけど、これは警察の仕事。明日は土門が出てくるから、彼に行かせるわ」 土門剛志(どもんつよし)は、親族の法要で山口へ帰っていた。 「咲さん、霞はその道のプロだから、TERRAで、その Guardってヤツらを調べてみるわ」 「しかし…」 「咲、ラブさんの協力なら、ありがたくお願いしようじゃないか」 「分かったわ。無理しないで、何か分かったら連絡を」 「じゃあ…俺は、手下に都内の高架を探らせるか。あのマークが予告なら、また書かれる可能性があるからな」 「神、トラブルだけは起こさないでよね💧」 「しかし…予告マークだとしたら、最初の事故は、やっぱり不運な事故ってことですね」 「かもね。とにかく、明日みんなよろしく❗️」 まだこれで終わりではない。 嫌な予感が、皆んなの頭をよぎっていた。
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