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〜文京区千駄木〜
9:30。
国土交通大臣、羽戸山東次郎宅。
呼び出しボタンを押す紗夜。
「はい、どちら様でしょうか?」
「警視庁刑事課の宮本です。少しご協力を頂きたく、参りました」
「刑事さんですか。ご苦労様です。残念ながら、もうご主人様はお勤めに出られてまして」
それは承知の上である。
「いえ、私たちは、家政婦の島津さん、あなたにお話を伺いたいのです。ご迷惑はお掛けしませんので、お願いします」
少し間が開く。
「分かりました。私でよろしければ、お入りください」
門が自動で開いた。
手入れされた立派な庭園が、邸宅まで続く。
玄関のドアを開け、島津が顔を出した。
「どうぞ中へ」
「失礼いたします」
(驚いてはいるものの、警戒はない)
淳一が、斜め上の監視カメラの動きに気付く。
(見られてるぜ、時間はない)
客間に通され、お茶出しを断り、話に入った。
「お聞きしたいのは、羽戸山大臣の息子さんのことです。今どちらにいるか、ご存じなら教えてください」
急に警戒心が強くなる。
「翔早様ですか…彼が何か?」
「確かではないんですが、何か犯罪に巻き込まれた様な話を耳にしたらしく、花山警視総監が心配していましたので」
花山と羽戸山大臣が、親しい間柄であることは、知っていた。
「まぁ、花山様が。そうでしたか」
警戒心が一気に解ける。
「早くにお母様を病気で亡くされて、私が面倒を見て参りました。大学卒業後は、ご友人達とインターネット関連の会社を立ち上げ、どの様なものかは知りませんが、世界中を回っておられ、成功されている様です」
「日本には?」
「今年になって帰国し、しばらくこの家におりました。仲の良い親子です。私も沢山の写真を見せてもらいました」
(過去形だな)
(嘘はないわ)
「今は、どこにいるか、ご存知では?」
「それが…」
話しかけた時、島津の携帯が鳴った。
「少し、失礼します」
少し慌てて、部屋を出て行く。
「ここまでだな」
「ええ。でも…一瞬大きな病院が見えたわ」
島津が戻って来た。
「すみません。羽戸山様から、急ぎの用事を頼まれまして…」
「いえ、お邪魔しました。十分お話はお聞きしましたので、くれぐれも気をつけてくださいと、お伝えください」
そのまま家を出て、車に乗る。
すぐに電話をかける紗夜。
相手は直ぐに出た。
「紗夜さん何?今から手術なんだけど」
「莉里さん、忙しい時にごめんなさい。教えてほしいことがあって」
常盤莉里。
先端医療工学大学病院のSD(Student Doctor)である。
「いいわよ、私は見てるだけだから」
「先日の水道橋の多重事故の夜、政府要人が1人搬送されたはずなんだけど、心当たりないかしら?」
「それって、秘密裏に取り扱う情報よ。運ばれても外にはもちろん、院内でも限られた者しか知らないやつ。私が知ってると思う?」
思っている紗夜。
「全く…情報屋って言うんだっけ?こう言うの。まぁ…いいけど。東京大学医学部附属病院。要人御用達で、水道橋からなら直ぐ近くよ。医学部の脳神経外科に、中川さゆりっていう噂好きなヤツがいるから、連絡しとくわ」
「東大病院ね。助かったわ。さすがね」
「それって喜ぶべき?ヒルトンのディナーでよろしく!」
「分かったわ。ありがと!」
電話を切る。
「学生が情報料とるのかよ💧」
「まぁいいじゃない、急いで淳」
持つべきものは友。
東大病院へ向かう2人であった。
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