【2】Trial 〜試〜

7/9
前へ
/34ページ
次へ
〜文京区千駄木〜 9:30。 国土交通大臣、羽戸山東次郎(はとやまとうじろう)宅。 呼び出しボタンを押す紗夜。 「はい、どちら様でしょうか?」 「警視庁刑事課の宮本です。少しご協力を頂きたく、参りました」 「刑事さんですか。ご苦労様です。残念ながら、もうご主人様はお勤めに出られてまして」 それは承知の上である。 「いえ、私たちは、家政婦の島津さん、あなたにお話を伺いたいのです。ご迷惑はお掛けしませんので、お願いします」 少し間が開く。 「分かりました。私でよろしければ、お入りください」 門が自動で開いた。 手入れされた立派な庭園が、邸宅まで続く。 玄関のドアを開け、島津が顔を出した。 「どうぞ中へ」 「失礼いたします」 (驚いてはいるものの、警戒はない) 淳一が、斜め上の監視カメラの動きに気付く。 (見られてるぜ、時間はない) 客間に通され、お茶出しを断り、話に入った。 「お聞きしたいのは、羽戸山大臣の息子さんのことです。今どちらにいるか、ご存じなら教えてください」 急に警戒心が強くなる。 「翔早(つばさ)様ですか…彼が何か?」 「確かではないんですが、何か犯罪に巻き込まれた様な話を耳にしたらしく、花山警視総監が心配していましたので」 花山と羽戸山大臣が、親しい間柄であることは、知っていた。 「まぁ、花山様が。そうでしたか」 警戒心が一気に解ける。 「早くにお母様を病気で亡くされて、私が面倒を見て参りました。大学卒業後は、ご友人達とインターネット関連の会社を立ち上げ、どの様なものかは知りませんが、世界中を回っておられ、成功されている様です」 「日本には?」 「今年になって帰国し、しばらくこの家におりました。仲の良い親子です。私も沢山の写真を見せてもらいました」 (過去形だな) (嘘はないわ) 「今は、どこにいるか、ご存知では?」 「それが…」 話しかけた時、島津の携帯が鳴った。 「少し、失礼します」 少し慌てて、部屋を出て行く。 「ここまでだな」 「ええ。でも…一瞬大きな病院が見えたわ」 島津が戻って来た。 「すみません。羽戸山様から、急ぎの用事を頼まれまして…」 「いえ、お邪魔しました。十分お話はお聞きしましたので、くれぐれも気をつけてくださいと、お伝えください」 そのまま家を出て、車に乗る。 すぐに電話をかける紗夜。 相手は直ぐに出た。 「紗夜さん何?今から手術なんだけど」 「莉里さん、忙しい時にごめんなさい。教えてほしいことがあって」 常盤莉里(ときわりり)。 先端医療工学大学病院のSD(Student Doctor)である。 「いいわよ、私は見てるだけだから」 「先日の水道橋の多重事故の夜、政府要人が1人搬送されたはずなんだけど、心当たりないかしら?」 「それって、秘密裏に取り扱う情報よ。運ばれても外にはもちろん、院内でも限られた者しか知らないやつ。私が知ってると思う?」 思っている紗夜。 「全く…情報屋って言うんだっけ?こう言うの。まぁ…いいけど。東京大学医学部附属病院。要人御用達で、水道橋からなら直ぐ近くよ。医学部の脳神経外科に、中川さゆりっていう噂好きなヤツがいるから、連絡しとくわ」 「東大病院ね。助かったわ。さすがね」 「それって喜ぶべき?ヒルトンのディナーでよろしく!」 「分かったわ。ありがと!」 電話を切る。 「学生が情報料とるのかよ💧」 「まぁいいじゃない、急いで淳」 持つべきものは友。 東大病院へ向かう2人であった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加