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〜サウジアラビア〜
原油の主要積出港であるラスタヌラ。
順調に荷積み作業が行われていた。
自動制御化された設備により、船員達は陸に上がり、一晩の休養を過ごせた。
そしてその翌朝、OIL ARK 号は、ペルシャ湾に忽然と、その姿を消したのである。
「艦長、いったい誰が?」
「彼女だ。JAXAの平泉結女 《ひらいずみゆめ》。置き手紙一枚残して、行きやがった」
全員が手紙を見る。
『雑賀船長と皆さん、すみません。皆さんの手当ては、それぞれの口座に倍額入金してあります。これよりこの船は、自動航行の実験に入ります。皆さんは別の船が今日出港しますので、それで帰国してください。これは、最初から計画されていたものです。?では、ありがとうございました』
「ふざけやがって!」
「いったい彼女の目的は何だ…」
目には見えず、レーダーにも感知されない、ステルスタンカーが、日本を目指していた。
〜新宿区西新宿〜
西麻布から外苑西通り418号線を疾走する、黒のバイクと真っ赤なベンツ。
信号はアイが操作し、巻き添え事故を防いでいるが、逃げるにも好都合であった。
サイレンを鳴らすパトカーでも、交通量の多い千駄ヶ谷から先で、バイクの追尾は不可能である。
しかし原田岬は違った。
プロレーサー並みのテクニックを持った、神の専属ドライバーである。
「西新宿か…」
自分の庭ではあるが、細い路地が多い。
「神さん、コイツただのバイク乗りじゃねぇ、プロのレーサーですぜ」
神が電話を掛ける。
「近藤か?俺だ、今国立競技場前を抜けて、新宿へ向かって黒のバイクを追跡中だ。一帯に協力を仰げ。お前らは先回りして、なんとしても止めろ。絶対に宿から逃がすな❗️」
「了解❗️」
真っ赤なベンツとバイクの暴走劇は、テレビでも流れていた。
間違いなく組長だと分かった近藤は、連絡を待っていた。
「いいか皆んな、死んでもバイクを逃がすな❗️」
そうとは知らないバイク。
靖国通りを左折し、新宿方面へと進路をとった。
「ギャギャギャ!」
時速140キロで広い交差点を目一杯使い、ドリフトしながら曲がるベンツ。
聞こえてはいないが、周りから歓声が上がる。
新宿の裏路地では、各商店が邪魔な障害物を出し、油をまく者もいた。
(何なんだ、あのベンツは❓)
バイクの男に、焦りの色が見えていた。
新宿区役所を過ぎたところで右折し、歌舞伎町への路地に入る。
「歌舞伎へ行ったぜ❗️」
ベンツは新宿駅を右折し、バイクと並走する。
路地の障害物を避け、速度が落ちるバイク。
「邪魔だ❗️どけ❗️」
ヘルメットの中で叫びながらも、上手く避けて行くバイク。
「キキー!」
その前方を左から来た車が塞いだ。
(クソッ❗️)
咄嗟に道に出された障害物を踏み台にし、アクセル全開で車を飛び越えた。
しかし、
その着地を、右からの黒いベンツが捕らえた。
「ガンッ❗️」
「ガガガガ…ヅン!」
吹き飛ばされたバイクが、火花を散らしながら路面を滑り、電柱で止まった。
「クッ…クソ」
ベンツからゆっくり降りる近藤義史。
バイクの向こうに真っ赤なベンツが停まる。
「良くやった、みんな」
飛鳥神が、降りて近付く。
「何なんだお前ら、ヤクザがどうして警察に協力してんだ⁉️」
「周りを良く見ろ」
各店から、ゴルフクラブやバット等を持って、店員が出て来ていた。
「お前にどんな事情があるのかは知らねぇ。しかしなぁ、関係ねぇ人を殺すなんてなぁヤクザだけじゃねぇ、誰も許さねぇんだよ❗️」
「社会のゴミが!偉そうに言うな❗️」
瞬間で胸ぐらを掴み、電柱に押さえ付ける神。
それへ、怒りの拳が炸裂した。
「ヅガーン💥❗️」
ヘルメットのスモークシールドを粉砕し、鼻先1mmで止めた。
そのままヘルメットを剥ぎ取る。
「その度胸。余程の恨みがあるんだろうな…。確かに俺たちは、まともな社会から見ればゴミかも知れねぇ。だが今のお前は、そのゴミ以下だ。殴る価値もねぇ」
手を離し、車へと歩き出す神。
「連行する。そいつを乗せろ」
「へい。おら、来い!」
原田が運転席に乗り込み、近藤が彼を後ろに乗せた。
反対側で何かしている神。
「神さん、何やってんすか?」
「な…何でもねぇ💦台場へ行け」
乗り込んだ神。
走らせながらソレに気付く原田。
「メット持って行くんすか?」
「ウルセェ!しょ、証拠品だ💦」
入り込んだ手を抜こうと、足掻いている神。
通信機から咲の声がした。
「神、そっちはどうなったの?」
「抜けなくなった💦」
「はぁ❓」
「あ…いや💦つ、捕まえたぜ。今そこへ向かってるところだ」
「やるじゃない、惚れ直したわ❣️」
「咲さん💧みんな聞こえてますよ」
昴が割り込む。
「マジ💦あらら…とにかくご苦労❗️」
真っ赤な顔で、慌てて通信を切る咲であった。
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