108人が本棚に入れています
本棚に追加
〜東京台場〜
エレベーターを出る戸澤公紀。
「ひでぇなコイツは!」
スマホを見ながら刑事課フロアに入る。
地上30階の警視庁凶悪犯罪対策本部。
あらゆる部署のエキスパートを集めた、警視庁の特殊本部である。
「なんだ、皆んなも見てんのか。監視カメラなんかより、動画投稿サイトの方がいいぜ」
昴が直ぐに切り替える。
「すごい…既にフォロワーが10万超えてる」
「感心してる場合じゃないわよ❗️戸澤、ネットオタクは捕まえたの?」
「咲さん、オタクじゃなくて、今や下手な芸能人より有名なチューバーよ」
違法な現場や、犯罪映像を投稿する、フォロワー数億越えの通称Guard(監視人)。
「空振りだった。ヤツらのネットワークは、警察にも通じてんじゃねぇか?」
「元公安のエースがよく言うわね」
「元機密秘書に言われたくねぇなぁ」
「戸澤、土屋君。夫婦喧嘩は家でやる様に!」
富士本も、2人が戯れ合っていることぐらい分かっている。
「これじゃ、今夜の『スカイダイバー』はなしかな…」
「昴、スカイダイバーって、この前霞ヶ関の警視庁ビルから飛んだ奴か?」
夢川翔。
通称『ムササビスーツ』とも呼ばれる進化したウィングスーツで、主に夜空を滑空しながら夜景を投稿する人気スターである。
その素顔は、未だ知られていない。
「あっ!やってますやってます❣️」
昴がタブレットを見せる。
「でもこれは編集してあるから、生配信じゃないですね。珍しい」
「さすがに警視庁本部が頭に来て警戒してるだろうから、暫く生は無理だろう」
戸澤が楽しそうに言う。
「ですよね…これは東京ドームだから、ドームホテルの屋上からですね」
東京ドームホテル。
高さ155m、地上43階の超高層ホテルである。
「ん?」
「どうしました、咲さん?」
そう尋ねた土屋も感じていた。
「ん〜何でもないわ。気のせいね」
気になりつつも、それより事故が心配である。
「しかしこの動画、正に決定的瞬間ですね」
昴が事故現場の録画映像を繰り返し映す。
再生回数は、もう10億回を超えていた。
「空撮ってことは、ドローンだな。運がいい…ってのは、不謹慎か💦」
土屋の顔色を伺う戸澤。
改めて、悲惨な事故映像に、言葉を無くして佇む。
最初のコメントを投稿しよう!