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構えた銃を下ろしたラブ。
松川も銃口を下げた。
「あなたの狙いは何?無関係に大勢を殺した意味は?」
「フッ…試したのよ。この国における、人の命の価値をね」
「命の価値?」
意外な言葉に、心意が読みきれないラブ。
「5年前の事故には、立派な慰霊碑を作り、毎年供養の式典を行う。今回の2カ所にも、慰霊碑が設置された。2カ所目は体裁繕いだろうけどね。3件目には、造られない様だが…犠牲者のほとんどが警察官ということが理由か?」
言いたいことが読めた。
「話題になり、多くの一般人が死ねば、慰霊碑や式典を行うが…一体何人死ねばそうなるのか?事故は日本中で毎日数えきれない程あり、人が死んでいる。私の親も事故に遭い死んだ」
深い悲しみと怒り。
それが彼女の力と無慈悲さの原動力と知る。
「10人か?20人か?…関係ない。話題になり人々が興味を持つか持たないか?それが、判断基準だ。被害者の家族や親しい者にとってみれば、たった1人の死でも、他人の死より尊い。不公平極まりないとは、思わないか?」
会話は、自らネットに流していた。
聞いている人々。
言っていることに間違いはない。
共感し、同じ怒りを持つ者もいる。
しかし。
ラブはそれを、完全に否定した。
「違う」
落ち着いた声で、たった一言。
それが、騒ついた人々の心を止めた。
一瞬、反論に詰まった松川。
自分を真っ直ぐ見つめる、慈愛に満ちた瞳。
そして続けた。
「松川、お前は大切なところで間違えている。それは命の価値とは、全く関係ないものだ」
「何っ?」
「もとより、命に価値などない。あってはならない概念だ」
聞いている者全てが、今、その言葉の意味深さを考えた。
「全ての命に抱く慰めの心は、人それぞれが持つもの。他人に求めたり、それを批判するものではない。慰霊碑や式典を不公平と感じる時点で、あなたは自分の想う人の命を、他とは違う特別扱いをしているのです」
呆然と立ちすくみ、動けない松川。
(なぜ…この私が…)
初めて遭う…他と違う存在。
生きる為、研ぎ澄まされた感性が震えた。
(これが…トーイ・ラブ…か)
「もう…あなたは自分と戦う必要はない。本当は全て分かっていたはず。もう償う時です。あなたを必要とした奴らは、警察の手に堕ちた。もしも警察の手に余る時は、この私が絶対に逃がさない。人を信じて、共に生きる世界があることを知りなさい。まずは私を信じて」
自分の中から…
何かが抜けていく気がした。
人を殺め、邪魔なものを破壊しても、決して晴れることのかった悲しみ。
両親が死んだ時。
二度と無いと思った涙が、頬を流れ落ちる。
ふと気付くと、そばにラブがいた。
差し出された手に、スイッチを渡す。
「もう…終わった」
呟き、ハグするラブに『愛』を感じた。
「階段には小型爆弾が多数…」
「さすがね。片付けるのが大変そう」
(紗夜さん、松川は確保しました。階段の爆弾は、TERRAの技術部隊が回収します)
(ラブさん…ありがとうございました)
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