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〜大田区令和島〜
海を隔て羽田空港の北に位置し、東京港の浚渫工事(海底を掘って深くする工事)で発生した土砂によりできた埋立地である。
東京と国が進める港湾開発の一環で、今もなお埋立は続いている。
令和島に新しく建設された、石油プラント。
これにより都内への供給効率が上がる。
また、併せて造られた、世界最大級の油送船『Oil Ark』(油の方舟)。
全長355m、船体幅70m、高さ38mのVLCC(very large crude carrier:大型石油タンカー)は、最新鋭のテクノロジーを使用した世界初の電気と水素で航行するタンカーである。
通常の船舶は、重油を燃料としたディーゼルエンジンであるが、この『Oil Ark』は、電気と水素などで航行する。
広い甲板には、高効率の太陽光パネルを装備し、速度も通常のタンカーより速い。
石油タンカーは、日本から、サウジアラビアのラスタヌラまで、20日程かけて航海する。
VLCCが積む原油量は約200万バレル(約3億ℓ)で、これは日本で一日に消費される原油の量の約半分に相当し、それを約30時間かけて積み込む。
それに対して『Oil Ark』は、250万バレルの積載が可能で、航海日数は15日間、積み込みも20時間と、大幅に短縮している。
さらに、ペルシャ湾やオマーン湾では、タンカーを狙った海賊犯罪が現在も年間数十件発生しており、マレーシアのクアラルンプールに海賊情報センターを置く、国際商業会議所国際海事局(IMB)が情報収集と対策を講じている。
満載のタンカーは、海面からの舷が低く、乗り込みやすい。
また、船員も20〜30名のタンカーは、格好の獲物なのである。
『Oil Ark』は、機密の防衛機能を装備しており、僅か7名の乗組員で安全性をも確保しているのである。
令和島の石油プラントでは、その開設式と船の出港式が、華やかに執り行われていた。
「ようやくここまで漕ぎ着けるに至りました」
経済産業省の大蔵要人事務次官が、ハサミを持って並ぶ眉村敏之主相に笑顔を見せる。
「国土交通省と経済産業省、それにJAXA(宇宙航空研究開発機構)が日本の未来に手を組む。素晴らしいことです。まずは、おめでとう!オイルラインは、まだまだエネルギー資源の乏しい我が国には欠かせないもの。これからも宜しく頼みます」
次期大臣候補の大倉と堅い握手を交わす。
ファンファーレが鳴り、合図に合わせて、要人達が一斉に餞テープに鋏を入れた。
盛大な拍手と昼間の花火が上がる。
ただ1人。
その光景に、冷ややかな目を注ぐ者がいたことを、誰も気付いてはいなかった。
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