108人が本棚に入れています
本棚に追加
〜千代田区水道橋〜
日本の復興速度は、必要性により大きく違う。
死者27名を出した事故現場は、2日で中央本線が仮復旧し、この1週間で、古かった高架橋は美しさ際立つ景観に生まれ変わった。
首都高5号線も、じきに再通するであろう。
道路脇には、事故の犠牲者を悼む石碑が置かれ、連日関係者の祈りが後を絶たない。
「ここであんな悲惨な事故があったなんて、嘘みたいね」
「だな。街の人の中には、新しくなったことを喜んでいる奴までいやがる」
東京メトロ南北線の後楽園駅で発生した、人身事故を調べに出た、紗夜と鑑識・科学捜査部長の豊川勝政。
帰りのついでにふと立ち寄ったのである。
「しかし…VIPの娘の自殺に、うちが呼び出されるなんてのは、勘弁して欲しいもんだな」
「あれ?…彼女は確か」
石碑に手を合わし、涙する女性がいた。
「失礼します、松川里美さん…ですね?警視庁刑事課の宮本紗夜です」
「紗夜刑事!あの時は大変お世話になりました」
右手の包帯が痛々しい。
「もう大丈夫なんですか?」
「ええ…何だか亡くなった方に申し訳なくて」
松川は、対向車線に飛ばされたが、奇跡的に大きな怪我はなく、助かっていた。
「あんたの証言通り、車の屋根には事故じゃありえねぇ凹みがあった。気にすることはない。あれは、あんたのせいじゃないからな」
豊川なりに慰めていた。
「私…昔からトラブルメーカーなんです」
(戸惑いと悲しみ、絶望…何が彼女に?)
紗夜は松川の心理を覗いて、深い闇を感じた。
「私の周りでは人が災難に遭われてるのに、いつも奇跡的に私だけが生き延びてて…」
「松川さん。全て貴女のせいじゃないわ。自分を責めないであげてください」
2人の優しさに、涙が頬を伝う。
と…通信機から、ミニスカハイヒールの咲の声が響いた。
見るまでもなく想像できた2人。
「紗夜、今水道橋よね?信濃町駅の高架で、多重事故が発生したわ❗️」
「ま、またですか⁉️」
「紗夜さん」
登録していた投稿サイトの映像を、スマホで見せる豊川。
(そんな…)
「直ぐに向かいます❗️」
「どうなっちまったんだ、全く」
「松川さん、元気を出してくださいね。急用ができたので、失礼します」
黙って深く礼をする松川。
刑事課の急用が、何らかの事件であることは察しがついた。
それを感じながら、車へと走る紗夜であった。
(彼女の過去に、いったい何が…)
普通ではないものを感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!