【1】Moment 〜瞬〜

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〜千代田区水道橋〜 日本の復興速度は、必要性により大きく違う。 死者27名を出した事故現場は、2日で中央本線が仮復旧し、この1週間で、古かった高架橋は美しさ際立つ景観に生まれ変わった。 首都高5号線も、じきに再通するであろう。 道路脇には、事故の犠牲者を悼む石碑が置かれ、連日関係者の祈りが後を絶たない。 「ここであんな悲惨な事故があったなんて、嘘みたいね」 「だな。街の人の中には、新しくなったことを喜んでいる奴までいやがる」 東京メトロ南北線の後楽園駅で発生した、人身事故を調べに出た、紗夜と鑑識・科学捜査部長の豊川勝政(とよかわかつまさ)。 帰りのついでにふと立ち寄ったのである。 「しかし…VIPの娘の自殺に、うちが呼び出されるなんてのは、勘弁して欲しいもんだな」 「あれ?…彼女は確か」 石碑に手を合わし、涙する女性がいた。 「失礼します、松川里美(まつかわさとみ)さん…ですね?警視庁刑事課の宮本紗夜です」 「紗夜刑事!あの時は大変お世話になりました」 右手の包帯が痛々しい。 「もう大丈夫なんですか?」 「ええ…何だか亡くなった方に申し訳なくて」 松川は、対向車線に飛ばされたが、奇跡的に大きな怪我はなく、助かっていた。 「あんたの証言通り、車の屋根には事故じゃありえねぇ凹みがあった。気にすることはない。あれは、あんたのせいじゃないからな」 豊川なりに(なぐさ)めていた。 「私…昔からトラブルメーカーなんです」 (戸惑いと悲しみ、絶望…何が彼女に?) 紗夜は松川の心理を覗いて、深い闇を感じた。 「私の周りでは人が災難に遭われてるのに、いつも奇跡的に私だけが生き延びてて…」 「松川さん。全て貴女のせいじゃないわ。自分を責めないであげてください」 2人の優しさに、涙が頬を伝う。 と…通信機から、ミニスカハイヒールの咲の声が響いた。 見るまでもなく想像できた2人。 「紗夜、今水道橋よね?信濃町駅の高架で、多重事故が発生したわ❗️」 「ま、またですか⁉️」 「紗夜さん」 登録していた投稿サイトの映像を、スマホで見せる豊川。 (そんな…) 「直ぐに向かいます❗️」 「どうなっちまったんだ、全く」 「松川さん、元気を出してくださいね。急用ができたので、失礼します」 黙って深く礼をする松川。 刑事課の急用が、何らかの事件であることは察しがついた。 それを感じながら、車へと走る紗夜であった。 (彼女の過去に、いったい何が…) 普通ではないものを感じていた。
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