【1】Moment 〜瞬〜

7/7
前へ
/34ページ
次へ
〜新宿区信濃町〜 5分前。 比較的()いている首都高速4号新宿線。 並走する中央本線の信濃町駅に、列車が入って来た。 駅の横で首都高速は、交差する外苑東通り319号線をくぐるかたちになる。 引っ越しサービスの大型トラックが、ライトを付けて入る瞬間。 後方からのバイクがすり抜けて行った。 「あっぶねぇなぁ…ったく!」 ふと、後方車がパッシングするのに気付く。 (俺に言ってもしょうが そこまでであった。 「ヅドッガーン💥💥❗️」 トラックを中心に大規模な爆発が起き、対向車線の壁をも貫いた。 「ドムッ…ドドーン💥❗️」 鈍く重たい音と共に、319号線の高架が一瞬膨れ上がり、次に爆炎が高架を車もろとも吹き飛ばした。 電車のドアが開いた瞬間。 重い爆音が響き、衝撃で壁や天井パネルなどが崩れていく。 パニックに陥った人々が、叫びながら我先にと、改札へ殺到する。 その先に、改札を抜けたばかりの、園児達の一団がいた。 驚き泣き出す園児達。 向かって来る群衆に絶望する若い引率者。 その時。 走ってきた1人が、改札を踏み台にして園児達を飛び越した。 着地とほぼ同時。 「バンバンバン❗️」 いきなり拳銃を壁に3発撃つ。 「落ち着けーッ❗️」 銃声と男の圧倒的な威圧感に、パニックがピタリと収まる。 「ちょっと…ごめんね〜通してね〜」 園児を掻き分けて、専属ドライバーの原田岬(はらだみさき)が現れた。 「神さんっ…全くも〜無茶苦茶な💦」 関東一帯を束ねるヤクザ、飛鳥組。 その組長、飛鳥神(あすかじん)である。 妻の妊娠をきっかけに堅気(かたぎ)になり、駅構内に店をオープンさせた元組員へ、祝いを持って来たところで、事故に遭遇した。 「仕方ねぇだろうが、こうでもしなけりゃアイツらは…」 「ありがとうございました。助かりました」 涙目で頭を下げる彼女。 力が抜けてへたり込むのを、咄嗟に(じん)が抱きとめる。 「シッカリしろ!早くガキ…あ、いや💦早く子供達を外へ。おい原田、お前も手伝ってやれ」 そう言って、群衆へ振り向く。 「ここは安全だ…たぶんな💧…とにかく落ち着いてちゃんと金払って出て行け」 素直に従う皆んな。 新宿で飛鳥神を知らない者は少ない。 ほぼ全員が出るのを見届けた頃。 警官が駆けつけて来た。 「銃を置いて手を頭に❗️」 「銃?そんなもん知らねぇぜ」 スーツを広げて見せる神。 銃は原田に渡していた。 「だよな、日向(ひなた)さん?」 「あ💦ええ、彼のおかげで、無事に皆さん避難できて、大変助かった次第で…はい💦」 駅長が神に合わせる。 「しかし…まぁとりあえず、署で話を聞かせてもらうか」 (焦りに困惑…迷い…逃避、迷惑?) 「神さん、お待たせ!」 到着した紗夜が、それぞれの心理を読み、対処を図る。 「警視庁刑事課の宮本紗夜です。彼は心配いらないから、あなたたちは救助を手伝ってください」 「は、はい❗️失礼しました💦」 慌てて駆けて行く警官2人。 「よう、久しぶりだな紗夜さんに豊ぉ…山?」 「川だ、川❗豊川だ️💧」 「おっと違ったか、悪ィ悪ィ。しかし、また派手にやらかしたな。今、組の(もん)呼んで、救助を手伝わせてるが…」 「こんなとこで銃を撃つなんて、信じらんないわ!豊や…あ〜もう❗️豊川さんお願い」 「珍しく…焦ってんな」 硝煙の匂い。 盲目であった頃に磨かれた、目以外の感覚。 「ただの事故じゃねぇってことか」 紗夜がスマホを見せる。 事故の最初から最後までが、動画で投稿されていた。 「マジか…この高さってことは」 「ドローンだな。済んだぜ3つ…でいいな?」 掌を差し出して見せる豊川。 まだ少し熱い弾の薬莢が3つ。 「サンキュー。アンタもいい奴だな」 「ほざくな。ヤクザに貸しがあるってのは、役に立ちそうだからな」 今は笑んでる時ではない。 深刻な目で表へと向かう3人であった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加