甘いイデオローグ

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『そう、まるで金平糖なんです。』  若き青年科学者は英雄が如く顔を輝かせて、あまりに有名なA氏の証言をスピーチの冒頭に引用した。 「私が発明した直径7mm程の粒子は、まるで金平糖のように丁寧に製造されます。2週間の手間暇をかけて電気炉で転がりながら結晶化された二酸化炭素は、さらに細かい粒子に砕ける瞬間、あらゆる燃料よりも効率的に熱を生み出します。」 「……それでは、二酸化炭素を減らしながら膨大なエネルギーを作れるということですか?」 「はい、その通りです。」  あまりに確信を持った回答に会場はどよめいた。それは、長かった欺瞞(ぎまん)的な環境論争から、とうとう人類が解放されることを示していた。 「A氏はこの物質の基本となる現象を発見しながら、それを爆弾に活用し政府転覆を狙うという重罪により死刑が確定しました。私は彼の罪を肯定する訳ではありません。しかし……」  若き青年科学者ーーカイルは、その魅力的な瞳を一度閉じてから、勿体ぶって顔をあげると観衆に語りかけた。 「彼の発見そのものは、罪では無い。こうして科学がその力を正しく使う限り、それは知恵となるのです。しかしながら私は、この功績を私一人のものだとは思いません。獄中でその罪を償おうとしたA氏にも、称賛があるべきだと、私は考えます。」  割れるような拍手で、スピーチは締めくくられた。あまりに若くして世界最高峰の科学者となったカイルは、長く人類を不安に陥れた環境問題を解決した英雄として、時の人となった。
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