コント×コント=?

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コント×コント=?

一本のマイクを正面に二人の声が響き渡った。 「何でだよッ! もうええわ!」 「「ありがとうございましたー!!」」 幾度となく繰り返してきた定型の締めの言葉。 ガラリとした空間に木霊すれば空しさが広がっていく。 ―――・・・こんな調子でいいのかな。 昼から始まるステージのリハーサルのため、観客がいないのは当然なのだが、普段の営業の時とそれ程変わらないのが辛いところだ。 リハーサルでもスタッフの反応で出来がいいのか悪いのか何となく分かるもの。 そして、誰に言われるまでもなく良好だったとは言い難い。 その証拠に相方である楽士(ガクシ)も溜め息をついている。 ただ本番前ということもあり、後ろ向きな言動は止めてほしいところだ。 精神的にノッていなければ、実演時にも悪影響が出るのは明白である。 「なぁ、楽士。 何か不満があるなら言ってくれよ」 「別に不満なんてないって」 楽士はステージから捌けて楽屋へと戻っていく。 その後を光生(コウキ)は追いかけた。 「何かあるからそんなに暗い顔をしてんだろ? 気になることは言わないと互いに成長していかないぞ」 「だからないって言っているだろ。 今日の本番もこのままでいい」 「そりゃあ、今からネタを変えるなんて無理だけどさ・・・」 ―――何か最近コントをやってもつまらないんだよな。 ―――仕事になるとこんなもんなのか? 二人はお笑い芸人を目指す大学四年生である。 お笑いは高校の時にコンビを組みずっと続けてきた。 今日の新年のステージイベントは、多くのお笑い芸人が集まり順にネタを見せていくというもので、普段のイベントに比べると大規模で重要だ。 先程のリハーサルはガランとしていたが、本番は二人の力とは無関係に観客が集まっているだろう。 単独でライブをやることもあるが、なかなか客は集まらず伸び悩んでいる現状、このチャンスをモノにできれば大きい。 人目に触れれば名前を憶えてもらえる可能性がある。 面白いと思ってくれる人がいれば、ファンになってくれる可能性がある。 いきなりドカンと売れることは期待していなく、コツコツと積み上げていけばその先に芽吹く可能性があると信じている。 ―――折角大きなイベントに出させてもらえるんだから、全力でやりたいんだよな。 「じゃあまた後で。 光生はこの後バイトがあるんだろ?」 「・・・あぁ」 「また昼にな。 あ、そうだ。 バイト終わりに養成所へ行くんだっけ?」 「そうだな」 「俺はやることがあるから行けない。 一人で行ってきてくれ」 「はぁ? ・・・まぁいいよ、分かった」 反論する気にもなれず承諾した。 「もしオーディションの結果が分かったらすぐに連絡してくれよ。 また後でな」 それで解散となった。 朝からのリハーサルには、売れていない所謂前座のような扱いのお笑い芸人が集まっている。 人気芸人は忙しく、各々別々でネタ合わせをすることになっているのだ。 テレビにガンガン出るようなタレントは今日は参加の予定がない。 それでも今の光生からしてみれば雲の上の存在だ。 ―――朝に集まるなんて売れていないことが目に見えているから悲しいよな・・・。 当然、本番中前半に売れていない芸人を集中させ過ぎると場が白けてしまう可能性がある。 途中途中に人気芸人の順番が組み込まれているため、場の熱気を持続させ続けないといけないという役割もあった。 ―――俺たちだけでやるなら好きにやればいい。 ―――だけどライブイベントとなれば先輩を立てなければいけない。 ―――・・・爪痕を残すとかよく言うけど、何か腑に落ちないよな。 大学生の二人はお笑い一本に打ち込んでいる人間に比べるとどうしても取れる時間が少なくなる。 他の芸人や先輩のネタを見て研究などの時間も設けたいと思いつつ、なかなかそのような時間が取れない。 ネタだけやるのならそれでもいい。 ただアドリブ力がないと今後困るシーンが必ず出てくると思っている。 溜め息が出そうになるのを堪えつつ、時間がないためバイト先へと急いだ。 向かっている最中に兄から連絡が入る。 『もしもし、光生か? 今日ステージだろ?』 「あぁ。 よく俺のスケジュールを把握しているな」 『当たり前だろ! 俺はお前の夢を応援してんだから』 「・・・ありがと」 素直にそう言われるとむず痒い。 『遠くて見にはいけないけど頑張れよ?』 「あぁ、もちろん」 兄は一部上場の企業に就職している自慢できる兄だった。 お笑い芸人という先の見通しがつかない状態の弟を唯一応援してくれる身内が兄だ。 『今光生と電話しているの? ちょっと貸しなさい! あ、待てよ母さん! 勝手に取るなって!!』 電話越しから母と兄とやり取りが聞こえてきた。 それだけで気分が沈む。 ―――・・・またこうなるのか。 光生は一人暮らしで兄は実家暮らしである。 両親の実家は貧乏で現在家計を支えているのは兄と言っても過言ではない。 『光生!! アンタ、就職先は決まったの!?』 「いや、だからまだ・・・」 『まだお笑いを目指しているの!?』 「・・・そうだよ。 まだ俺は諦める気はない」 『いつになったら結果が出るのよ!!』 「それは・・・」 『だから最初から止めておきなさいって言ったのに! さっさとお笑いを辞めてまともな会社に就職しなさい。 それで仕送りを送りなさいよ!!』 そこまで言うと兄がスマートフォンを奪い取る音が聞こえる。 『母さんはあっちへ行っててくれ!! ったく・・・。 仕送りの前に自分で何とかすることを考えろよな』 「・・・」 『あー。 光生、気にすんなよ? 一度だけの人生だ。 今上手くいかなくても上手くいった時、凄いかもしれないじゃん? 後悔しない道を選べ』 「・・・あぁ」 『ほら、元気を出せって! また楽士も誘って三人で飯にでも行こうぜ?』 「・・・ありがとな。 兄貴」 兄との通話を切った。 ―――安定しない職業に母さんが心配して怒るのも分かる。 ―――・・・だけどな、一番焦ってんのは俺なんだよ。
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