コント×コント=?

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一週間後、光生はラーメン屋でバイトをし、休憩時間を見つけてはネタを書き店長に見てもらっていた。 大手芸能事務所に所属することになっても日常にほとんど変化はない。 しかし、外見的な変化はなくても心のうちは随分と明るく軽い。 「店長! さっき思い付いたこのネタ、どうですかね?」 「おぉ、見せてみろ」 店長はどんなに店内が忙しくても後輩へのアドバイスは適当にしない頼れる存在だった。 それにどちらかと言えば厳しい意見が多いのも有難い。 「面白ぇじゃん! いいんじゃないか?」 「ありがとうございます!!」 以前まではダメ出しも多かった。 しかしこの一週間は褒められることが多くなった気がする。 「この一週間で本当に光生は変わったよな」 「そうですか?」 「あぁ、生き生きしているというか。 ネタを考えるのも上手くなっている」 「まぁ、全ては心の持ちようということですね」 「本人が楽しめていないものを人が楽しめるわけがないからな。 コントには魂が宿る。 演者が上の空じゃあ役に割り当てられている奴も浮かばれないってもんだ」 「そう思います」 「光生はバイトが終わったら空いているか?」 「どうしてですか?」 「後輩の面倒を見てやってほしいんだよ。 今の光生なら見てやれると思うからさ」 「嬉しいです。 でもそれ別日にできませんかね? この後は楽士と約束があって」 用事があるのに無理にというような人ではない。 空いている時にと約束し、バイトが終わり次第待ち合わせしていた駅へと向かった。 既に楽士はおり手を振ってアピールしている。 「バイトお疲れ」 「あぁ。 よかったらいつか俺のいるラーメン屋へ来いよ」 「分かった。 食いにいくよ」 二人は電車へと乗り込んだ。 スマートフォンでスケジュールを確認していると楽士は心配そうに覗き込んできた。 「最近随分と忙しくなったけど大丈夫か?」 「大丈夫だ。 今は疲れというよりもお笑いに関することをやるのが楽しくて仕方がないんだ」 「それは凄くいいことだな。 でも身体が第一だから無理はすんなよ? 何かできることがあったら俺にも言ってくれ」 「あぁ」 あの後楽士は引退を撤回し、光生の隣へ戻ってきた。 最高責任者が選んだコンビということですぐに取り上げられ既にいくつか仕事が決まっていた。 とはいえ、あくまで仕事が決まっただけ。 収入は入っていないためバイトを辞めることもできない。 「そう言えばさ。 社長さんはどうして俺たちに目を付けたんだろうな?」 「それ聞いてみたよ」 「おぉ! 何て?」 「突っ込み役が笑顔でいることなんてあまりないんだってさ」 「・・・突っ込み役が笑顔?」 「そう。 ボケは楽しそうに笑いながらやることはあっても、突っ込み役は鋭い顔なのが定番だろ? 俺たちはその鋭い顔じゃなくて、笑いながら突っ込んでいたんだって。 それが刺さったらしい」 「へぇ・・・。 あ! 確かにあの時は俺にとって最後のネタだったから、全力で楽しもうと思っていたんだ」 「あぁ。 その楽しさが俺にも伝わってきて、俺も次第に心から楽しむようになった。 それが顔に出たのがよかったらしい」 「なるほどな・・・。 じゃあ今後は笑顔で突っ込んでいかないとな」 二人は養成所へと着いた。 先生はが嬉しそうに近付いてくる。 「光生、楽士! 忙しいのによく来たな!」 「まだ俺たちはここの生徒ですから」 「そうだけどさ。 楽士も一週間ぶりだな。 人騒がせな奴め」 「すみません」 「えっと、行和は・・・?」 光生はレッスン場を見渡した。 先生の指の先にはまるで以前とは別人のようになった行和が若い芸人と話していた。 「あそこだ」 「おぉ。 何か様になっていますね」 「あぁ、俺の目は確かだったな」 行和は芸人にはならなかった。 だが先生にスカウトされ、ここのコーチとして雇ってもらうことになったのだ。 「行和のお笑いの知識はやっぱり凄いですか?」 「それもあるが、やはり誰でも隣に並ぶことができるというのが一番だな。 行和には自信がなくて堂々とネタ見せができない生徒や、パートナーと上手く合わない生徒と一緒にネタをやってもらっている。  あの行和の臨機応変な対応で自信をつけさせるというのが狙いだ。 いい奴を連れてきたな」 「行和を連れてきたのは俺じゃないんですよ。 楽士です」 「そうだったのか!? 楽士、見る目があるなぁ!!」 先生は楽士の肩をバシバシと叩く。 「それで、どうだ? 今後も頑張れそうか?」 「はい。 俺たちは一緒に同じ夢を目指して頑張っていきます!!」 「俺も同じ意見です。 単身赴任のような感じになるんですが、彼女も応援してくれています。 いずれ結婚のご報告もできると思います。  そして、生まれてくる子供にも堂々と胸を張れるような芸人になりたいと思っています」 「そうか!  まぁ、俺が最後までお前たちをサポートするから安心しろ。 俺にとってお前たち二人はいつまで経ってもここの生徒だからな!!」 ―――楽士が解散すると言ってきて一時はどうなるのかと思った。 ―――でもあの将来のことを考える時間は確かに必要だったんだ。 ―――あの日の出来事を無駄にはしない。 ―――これからも二人で一緒に日本一のお笑い芸人を目指していくんだ。 横にいる楽士は幸せそうに笑っている。 二人の芸人人生は一蓮托生、他に代わりなんて最初からいなかった。 ―――俺の相棒は何でも自分で抱え込んでしまうのが欠点だ。 ―――人思いだけど自分を犠牲にしがち。 ―――相手を傷付けないために自分の気持ちを押し殺す心配をかける奴。 ―――でも、これだけは言わせてほしい。 ―――俺の相棒が世界で一番面白い!!                               -END-
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