コント×コント=?

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―――何だよ、まだ来ていないのか。 楽屋はコンビごとではなく全員同じ広い楽屋で、売れていない自分たちからしてみれば慣れたもの。 他の芸人たちを見てみるとメンバーが揃っていたり、いなかったり、特別光生が珍しいわけではない。 ただそわそわしているのは自分だけで、待っていてもなかなか楽士はやってこない。 連絡しても既読にはなるが返信はなかった。 ―――一体何をしてんだよ。 ―――アイツの性格は真面目だから、何かをすっぽかすとかはないだろうけどさ・・・。 それでも最近の居心地の悪さからか徐々に焦りが募っていく。 ―――・・・はぁ、コンビニでも行って何か買ってこよう。 ジッとしていると悪いことを考えてしまいそうなのが嫌で席を立った。 裏口から出てコンビニを目指す。 その時裏口の駐車場から楽士の声が聞こえてきたのだ。 「・・・楽士? 来ていたのか?」 そう思い近付いてみると、そこには楽士と楽士の彼女がいた。 楽士の彼女が光生たちのことを応援してくれているのは光生も知っている。 ―――ステージでも見にきてくれたのかな。 そう思って見ていたのだが、どうも二人の雰囲気が重い。  「・・・あ、光生くん」 楽士は背を向けているため気付かれなかったが、彼女からは光生のことが見えてしまっていた。 楽士は振り返ると光生をジッと見つめてきた。 「な、何だよ。 来ていたなら連絡くらいよこせよ」 重たい空気にならないよう笑いながらそう言った。 だが楽士は切な気な表情を見せるだけだった。 「どうしたんだ?」 二人に尋ねると彼女が楽士に尋ねた。 「光生くんにはもう話したの?」 「・・・いや、まだ」 「話した? 何のことだ?」 口を挟むと楽士が言う。 「いや・・・。 後で話すよ」 「だから何度も言うけど、何か思ったことはすぐに言えって」 「今は言うべきことじゃない。 まずはステージをこなそう。 じゃあ、また後で。 行くぞ光生」 楽士は裏口から建物へ入ろうとした。 それを止めようと思ったが、何故ここまで来たのか考えてしまい判断が遅れた。 ―――あれ、コンビニ・・・。 ―――まぁ、気を紛らわせるために行こうとしていただけだからいいか。 既に楽士の姿は見えなくなってしまっている。 とはいえ、行く場所は楽屋しかなく、遅れること十数秒で辿り着くと何もなかったように座っていた。 「ネタ合わせしようぜ」 「あ、あぁ・・・」 そう言われてしまえば断るわけにもいかない。 確かに本番を控え大事なのは舞台に立った時のことだ。 「おい、集中しろよ。 確かに気になるようなことを言ったのは悪かったと思う。 だけど俺は舞台を大切にしたいんだ」 ―――どの口でそんなことを言うんだよ。 喉まで出かかった言葉を飲み込み、頷いた。 本番で失敗してしまえば元も子もないのだ。 ネタはタイミングが命で段取りを間違えてしまえば全てがおじゃん。 「光生。 ステージを楽しもうぜ」 「ん? おぉ・・・」 最近はステージ前は互いに無言のことが多かった。 久しぶりに前向きな声をかけられ挙動不審になってしまう。 ―――本当に何かあるのか? ―――いつもの楽士と雰囲気が違うような・・・。 自分たちが出る順番、売れていない二人は当然早い。 歓声を聞けばどのくらい客が入っているのか大まかに分かる。 いつも自分たちのライブでは聞くことのできない程だ。 ―――うわッ! ―――マジで満席・・・!! ただ登場した時の拍手の少なさから、自分たち目当てで来た人はあまりいないのだろうと悟った。 そしてコントが始まり最近感じたことのない違和感を感じた。 ―――・・・あれ? ―――リハーサルの時と違って凄くやりやすい・・・。 そして楽士の声の調子も違った。 調子がいいのか言葉のやり取りもテンポがよくて、自分でもどんどん楽しめているのを感じた。 ―――そう、これだよこれ!! ―――俺たちの昔のような感じだ。 ―――今ではこんなに楽しいと思えるコントはない。 ―――やっぱりコントは自分たちが楽しむのが一番なんだよ! ―――自分が面白くないと思ったものはお客さんも同様面白くないと感じるかもしれない。 ―――だから自分がこのコントは楽しいと思うのが大前提だ!! 「何でだよッ! もうええわ!」 「「ありがとうございましたー!!」」 登場の時とは違い大きな拍手に包まれる。 その音がまるで全身を駆け抜けるかのようで、舞台袖に引いても心臓の鼓動が収まらなかった。 ―――凄ぇ楽しかった・・・! ―――最初は乗り気ではなかったお客さんも後半はたくさん笑って楽しんでくれていた。 ―――これは手応えを感じたぞ!! ―――このままいけば俺たちは・・・ッ! ステージを捌け楽屋へ戻るまでの最中に楽士に言った。 「楽士! 今のコント滅茶苦茶楽しかったな!!」 そう言うと楽士も喜んだ姿を見せた。 「あぁ! 俺も凄ぇ楽しかった。 光生が相棒でよかったと本気で思えた」 「何だよ、改まって。 俺たちはこれからだろ!? 今の感覚を忘れないようにまだまだ頑張っていこうぜ!!」 「・・・」 「・・・楽士? どうかした?」 楽士は再び切な気な表情を見せた。 「・・・話があるんだ」 「話? さっき裏口で話していたことか?」 「・・・あぁ」 「何だよ?」 楽士は光生を真っすぐに見据えてきた。 「コンビを解散したいんだ」
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