コント×コント=?

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楽士の様子がおかしいとは思っていた。 しかし、解散を言い出すとまでは思っていなかった。 あまりに突然過ぎるその言葉に、動揺を隠せなかった。 「はぁッ!? 急にどうしてそんなことを言うんだよ!!」 「真剣に将来のことを考えたんだ。 光生とずっとやってきて楽しかった。 それなりに観客を沸かせる時もある。 ただ別にそれは俺の力っていうわけじゃない。 正直言って俺には才能がないと思う」 「そんなわけねぇだろ!」 「いや、そんなことあるさ。 光生だって分かっているだろ? 俺たちコンビのネタは全て光生が書いているんだから」 「・・・それはだって」 「もちろん俺も納得してそうしていることだ。 というか、俺はネタを考えろって言われても一人では思い付かないよ。  いつも渡される台本に感謝はしているけど、俺自身は演者のようにそれの通りにやるだけ。 たまに意見を出したりネタの提供をしたりはあるけど、あんなの添えものだよ」 ―――そう言われると台本を書いている俺に問題があるような気がするけど・・・。 「それにこんなことは言いたくないけど、もし俺たちコンビが売れたとしても光生の隣に立っているのは俺じゃなくてもいいんだ」 「はぁ!?」 「いや寧ろ、俺じゃなければ案外さっくりと売れていたのかもしれない」 「そんな仮定の話は意味ないだろ!! もしそれを言うなら俺がネタを書いていなければ楽士は売れたかもしれない、っていうことになるんじゃないのか!?」 「さっきも言ったけど、それだったら別に俺じゃなくてもいいっていうことだよ。 可能性があるのは俺じゃなくて光生なんだ。 俺は普通の会社に勤めてやっていくくらいしか道はないんだよ」 「道はない、って・・・。 可能性を勝手に狭めるなよ。 って、それに待てよ! 楽士だって感じただろ!? さっきの観客の手応えを!!」 「感じたよ。 でももう遅い」 「ッ・・・」 「俺にとってさっきのステージは光生とやるお笑い最後のものだと思っていた。 だから全力で楽しんだ」 「何だよ! 自分勝手過ぎるだろ!? 俺の家族よりも楽士の家族の方が応援してくれてんだ! 俺よりも時間の余裕はまだあるはずじゃないか!!」 ―――楽士の家族はみんな俺たちのことを応援してくれている。 ―――だから大学の費用や一人暮らしの仕送り、更には養成所へ通うお金も出してくれているんだ。 ―――俺の家族は早くお笑いを辞めて就職しろとうるさい。 「俺と楽士とでは家庭事情が全然違うし、俺の方がどう見ても将来が危ないんだ!! なのにどうして楽士が先に弱気になってんだよ!?」 「・・・ごめん」 「謝って済む問題じゃねぇッ! 今までの努力を全て無駄にするというのか!? どうして自分で決める前に俺に相談しなかったんだよ!!」 「・・・」 追及してもどうして急に弱気になり就職希望をしようとしたのか教えてはくれなかった。 「・・・俺の金がカツカツだから楽士はいつも飯を奢ってくれていたよな。 それが嫌になったのか?」 「そうじゃない」 「俺たちにもっと人気が出たら今度は俺がずっと奢ろうとしていたのに!!」 「それは気持ちだけで十分だよ。 相方として俺ができることはそれくらいしかないんだから」 「いやッ・・・」 「おーい。 この廊下は狭いんだから早く進んでくれー」 まるで水をかけるかのように背後から声が聞こえた。 どうやら次の組の出番が終わったようだった。 当然、このまま話を続けているわけにはいかない。 「行くぞ」 楽士はスタスタと控室へと戻っていった。 ―――流石にみんながいる控室ではこんな大事な話はできないよな・・・。 モヤモヤとした気持ちのままでいると、控室へ着くなり楽士は荷物を持って席を立った。 「楽士? どこへ行くんだ?」 「ちょっと行くところがあるから」 そう言って控室を出ようとする楽士を追いかける。 「おい待て! 俺はまだ認めていないからな!?」 「・・・」 「何とか言えよ!!」 楽士はドアを開け控室から出ていく。 そんな楽士の背中に向かって言った。 「楽士が先に俺をこの世界へ誘ったくせにッ!!」 光生も追いかけようと控室から出ようとした瞬間、丁度先輩が入ってきた。 この先輩は先程後輩に飲み物を買わせにいっていた人をパシリに使う感じの悪い先輩だ。 「おぉ、光生か。 そんなに大声を上げてどうしたんだ?」 「いや・・・」 「楽士はどこへ行くんだよ?」 「・・・」 「あ、それよりも今夜ここにいるメンバーで打ち上げをする予定だけど、お前たち二人も当然来るよな?」 ―――打ち上げ・・・。 ―――正直今はそんな気分じゃない。 「・・・考えておきます。 ちょっと俺は行くところがあるので」 そう言って自分の荷物を取りに戻り控室から出ようとした。 それをグイと肩を掴んで先輩に止められる。 「何だよ? 帰るって言うのか?」 「ッ・・・」 「先輩を置いて先に帰るとかいい度胸してんなぁ!?」 鋭い目付きで睨まれれば素直にこの場に留まるしかなかった。
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