追悼01 凍った女子中学生

1/1
前へ
/44ページ
次へ

追悼01 凍った女子中学生

 偶然。それは、時として餓鬼の涎に紛れた悪意の沼と化す。  2021年3月23日。北海道旭川市の公園で凍り付いた女子中学生が見つかった。遡る事、2月13日、氷点下17℃の夜に自宅を飛び出して行方不明となっていた市内に住む当時中学2年生の細河桜子さん14歳だ。  桜子は約2年前に受けた凄惨なイジメによって自宅に引きこもるようになり、医師にPTSDと診断され、そのフラッシュバックにも悩まされていた。  PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)とは、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態だ。  女子中学生が公園で亡くなった。自殺か他殺かはグレーゾーンにあった。  問題は、桜子さんを追い込んだイジメ問題だった。  桜子は、自閉症の傾向があり人とのコミュニケーションが苦手だった。時間があれば、読書に耽っていた。桜子が読書に利用していた公園は、偶然にも世の中を見下し身勝手な不満の捌け口として悪ふざけを行う素行の悪い同じ中学の三年であった中野美帆のグループ仲間の溜まり場だった。グループの仲間の親は、美帆の素行の悪さを懸念し、付き合うのを止めるようにと注意する者もいた程、その悪態は美帆を知る者にとってはそこそこ有名だった。  美帆の素行の悪さなど知らない桜子は、美帆に声を掛けられ、顔馴染みになる。友達がいなかった1年の桜子は当初、3年の美帆たちといるのを楽しく感じていた。  そこへ美帆の仲間である城井優斗が現れ、楽しいはずの交友関係が崩壊し始める。優斗は、桜子を気に入り、しつこく誘い断る桜子をオンラインゲームの「荒野活動」に誘い込んだ。対面だと緊張する桜子もオンラインで行う対話にはあまり抵抗を感じることなく行えた。それが桜子にとっては楽しかった。  優斗は、桜子が畳掛けるとパニックを起こし、正誤判断の見境がなくなるのを幾度か経験し、その性質を利用し悪だくみを思いつく。  優斗は、桜子が恫喝や畳掛けることで言う事を聞くのを知るととんでもない要求を桜子に行うようになった。  「桜子、友達が出来て嬉しいだろう」  「うん」  「じゃぁ、俺の言う事を聞け。聞かなければ皆にシカとするように言うからな」  「えっ?」  桜子が不安になったのを感じた優斗は、馬路雑言を浴びせかけた。桜子は優斗の思うようにパニックを引き起こした。  「止めて欲しければ言う事を聞け!」  「う・うん」  「胸を見せろ、下着も取ってだぞ」  桜子は、怯えながら優斗の支持に従った。それからは、その画像を拡散されたくなければと脅され、幾度か同じような要求に応じてしまった。  城井優斗の父は、旭川駐屯地第三師団の第三高射特科大隊の大隊長を務めていた。厳格な家庭で育った優斗は、押さえつけられる日常に窮屈さを感じていた。父の命令には怖くて逆らえない。その反動が、何でも言う事を聞く桜子に向けられた。  田舎のせいもあってか優斗は異性との関係も少なくなく、狭い地域だけに付き合っていた相手が取られたとか取ったの関係は日常茶飯事だった。  真剣な交際とは縁遠く、遊びの領域だった。「お前が付き合っていた恵子、今、他の奴と付き合っているぜ」「もう、分かれたし、関係ないわ」「俺だったら、包丁持って刺しに行くけどな」というような過激な友人との関係の中にもいた。  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加